バニッシング・アーチャー
「ここが『冥府の魔王』にして『暗黒の魔王』の城かよ?」
魔王城は、禍々しい装飾の施された城門によって、固く閉ざされていた。
「な、なんと巨大な城門でしょう。これを押し開けるだけでも、かなりの時を……」
「どきな、オッサン」隊長が振り向くと、巨漢男が立っていた。
重厚な城門をクーレマンスが僅か十秒で押し開け、一行は魔王城へと侵入する。
内部は、生物の内蔵を思わせるピンクの壁が脈打ち、鉛色の床には無数の人の顔が浮かび上がっていた。
「ウゲエッ……何これ寄食悪い! 魔王の奴、よくもこんな城に住んでられるわねえ?」
「カーデリアさんの言う通りです。さっさと終らせて出ましょう!」
カーデリアに同意するリーセシルに対し、彼女の姉が口を挟んだ。
「え、そうかな? あたしは壁も床も可愛いと思うんだケドな?」
「リーセシル姉さま、ゲテモノ趣味ですか! どんな神経してるんですかっ?」
「リーフレア、酷い! 内装(インテリア)の趣味は人それぞれだよう!」
「内装ってレベルじゃない気が……」カーデリアも妹の方の意見に賛同した。
「おい、お前ら。女子会トークは後にしな。さっそく敵さんのお出ましだぜ!」
シャロリュークが剣先を向けた先には、目大きな目玉に触手の大量に生えた魔物が、群れをなして押し寄せていた。
「ア、アレはッ!」
覇王パーティーに帯同していた別働隊の隊長が、驚きの声を上げる。
「あ、あの目玉の魔物は、魔術士系の高位モンスターですぞ。しかも、とんでも無い数がおります!」
「何怯えてんのよ? あんな程度の魔物なら、いつも戦ってるわ」「へ?」
呆気らかんと答えるパッションピンクの髪の少女に、ポカンと顔を向ける隊長。
「ええッ! しかしヤツら、既に集団で魔法の詠唱を始めてますぞ!」
「ようするに、詠唱が終る前に全部やっつけちゃえばいいんでしょ」
「それはそうですが……」「まあ、見てなさいって!」
カーデリアは、外で魔物を切り裂くのに使っていた、二本の刃(ブレード)を、十字に組み合わせる。
すると折りたたまれていた四つの弦が展開し、紅色の美しい弓となった。
「『トゥラン・グラビスカ』!! 可憐なる旋律を奏でし光の弓よ、我が意のままに魔を貫け!!」
彼女の詠唱とともに弓から放たれた無数の光の矢が、様々な軌道を描いて舞い飛ぶ。
そして巨大な眼球の中心を寸分違わず射抜いていった。
倒された魔物は、蓄えられた魔力を暴発させて次々と破裂し、辺りは白煙に覆われる。
「カーデリア! 次、来るぞ!!」
赤毛の少年の言葉通り、白煙の中から鋭い爪の新手の魔物が、大量に飛び出して来た。
「わーってるってシャロ! あたしが何て呼ばれてるか、忘れちゃったワケ?」
表情を歪めた少女は、迫り来る魔物の背後に一瞬で移動した。
「『バニッシング・アーチャー(消える弓使い)』の二つ名は、伊達じゃないわよ!」
カーデリアは魔物の死角に次から次へと回り込み、再び二つに分かれた刃を両手に、的確に魔物の急所を切り裂いていく。
「そうだったな……」
赤毛の英雄の目の前で、軽やかに揺れるお尻。
「『超絶お転婆な幼馴染み』の二つ名を忘れてたぜ!」
シャロリューク・シュタインベルグは、肩を竦めニッと笑った。
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