ハル・ピュイアの強襲
「ウオ、待ってくれ。オレたちは、アンタらの領土を侵すつもりなんてねェんだ」
船長のティンギスが、舵を護りながら空中からの攻撃をかわす。
「なにを勘違いしてんだい。アンタら、クレ・ア島に向かう商船の船団だろ。アタイらは積み荷か、もしくは金にしか興味が無いんでね。余計なモノは、掃除させて貰ってんのさ」
隊長格のハル・ピュイアは、部下たちに船を襲わせながら別の方向を見ていた。
「レプティスと、タプソスの船まで、やられちまってやがる!」
ドレッドヘアの船長は、後方に追従する仲間の船にも、鳥の女性たちが群がっているのを目撃する。
「つまりお主らは悪党で、この船の積み荷を奪おうと言うのじゃな?」
ルーシェリアは、大きく飛翔し隊長格のハル・ピュイアの前に向かった。
「キサマ、ただの小娘では無さそうだな。魔族か?」
「まあ、そんなところじゃ。ところでお主、名はなんと言う?」
逆に聞き返す、ルーシェリア。
「聞いて、どうする。死に行くお前が、我が名を知る必要などない!」
槍を持って、ルーシェリアに攻撃を仕掛けるハル・ピュイアの隊長。
「イ・アンナ!」
ルーシェリアは、レーマリアより拝領した剣を具現化させた。
「なッ、こ、これは……身体がッ!?」
飛んでいたハル・ピュイアの隊長が急降下し、海の中へと沈んで行く。
「妾の剣は、重力を操るのじゃよ。さて、他の連中も海に沈めてやるとするかの」
ルーシェリアは、コウモリの羽根で飛び回りながら、ハル・ピュイアたちを次々に海へと沈めて行く。
「ルーシェリア、こっちはなんとかする。他の2隻の方に、助けに行ってくれ」
「仕方あるまい。了解したのじゃ、ご主人サマよ」
青い髪の少年の指示を受け、後方の2隻の船まで飛ぶ漆黒の髪の少女。
「なんじゃ。どちらの船も、まだ持ち堪(こた)えておるではないか」
感心しつつも、剣を振るうルーシェリア。
イ・アンナの重力操作で、船に群がるハル・ピュイアたちは尽(ことごと)く海に沈んで行った。
「お、おのれ。よくもこのニコトエに、恥をかかせてくれたな。覚えておれ……」
海から這い上がった隊長格のハル・ピュイアは、捨て台詞を吐いて島の方へと飛び去る。
「ニコトエと言うのか。覚えておいてやろう」
遠く羽ばたくニコトエの後ろ姿にそう呟くと、ルーシェリアは元居た船に舞い戻った。
「アンタ、とんでもねェ強さだな。あれだけ群がってたハル・ピュイアを、全員海に沈めちまうたァよ」
漆黒の髪の少女を出迎える、船長の驚きの声。
「船長こそ、ずいぶんと腕が立つではないか。他の2隻にも、腕の立つ者が乗っておるのかえ?」
「まあな。レプティスとタプソスは、オレと同じ部隊で傭兵として戦った仲だ」
「それは、頼もしいのォ」
「うん。人も積み荷も、無事で何よりだよ」
舞い戻ったルーシェリアの元に、駆けつける因幡 舞人。
その両脇に、2人の少女の姿があった。
「ご、ごめんなさい、ルーシェリアさま」
「わ、わたし達、怖くて船の外に出られませんでした」
ルーシェリアに謝る、ルスピナとウティカ。
「そんなコトで謝らずとも良い。お主らの師匠も、外の世界を見て来いとは言っておったが、戦って来いとは言っておらなんだじゃろ」
「そうだぜ、ルスピナ、ウティカ。戦いなんてモンは経験しなくていいんなら、しねェ方がいい。血生臭い戦場なんざ、お前たちには似合わんぜ」
船長も舵輪を廻して、航路を修正する。
「なんじゃ。船長と大魔導士の高弟たちは、知り合いだったのかえ?」
「まあな。ルスピナはウチの村の娘だし、ウティカも付き合いのある山の村の娘だからよ」
2人の少女たちは、ティンギスにすり寄っていた。
「津波で、大勢の女子供も犠牲になっちまった。コイツらくれェは、護ってやんねェとな」
「フフ……そうじゃな」
舵を取る船長の背中に、ほほ笑みを向けるルーシェリア。
3隻の商船は、クレ・ア島の港に進路を向けた。
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