ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

ある意味勇者の魔王征伐~第13章・31話

ハル・ピュイアの強襲

「ウオ、待ってくれ。オレたちは、アンタらの領土を侵すつもりなんてねェんだ」
 船長のティンギスが、舵を護りながら空中からの攻撃をかわす。

「なにを勘違いしてんだい。アンタら、クレ・ア島に向かう商船の船団だろ。アタイらは積み荷か、もしくは金にしか興味が無いんでね。余計なモノは、掃除させて貰ってんのさ」
 隊長格のハル・ピュイアは、部下たちに船を襲わせながら別の方向を見ていた。

「レプティスと、タプソスの船まで、やられちまってやがる!」
 ドレッドヘアの船長は、後方に追従する仲間の船にも、鳥の女性たちが群がっているのを目撃する。

「つまりお主らは悪党で、この船の積み荷を奪おうと言うのじゃな?」
 ルーシェリアは、大きく飛翔し隊長格のハル・ピュイアの前に向かった。

「キサマ、ただの小娘では無さそうだな。魔族か?」
「まあ、そんなところじゃ。ところでお主、名はなんと言う?」
 逆に聞き返す、ルーシェリア。

「聞いて、どうする。死に行くお前が、我が名を知る必要などない!」
 槍を持って、ルーシェリアに攻撃を仕掛けるハル・ピュイアの隊長。

「イ・アンナ!」
 ルーシェリアは、レーマリアより拝領した剣を具現化させた。

「なッ、こ、これは……身体がッ!?」
 飛んでいたハル・ピュイアの隊長が急降下し、海の中へと沈んで行く。

「妾の剣は、重力を操るのじゃよ。さて、他の連中も海に沈めてやるとするかの」
 ルーシェリアは、コウモリの羽根で飛び回りながら、ハル・ピュイアたちを次々に海へと沈めて行く。

「ルーシェリア、こっちはなんとかする。他の2隻の方に、助けに行ってくれ」
「仕方あるまい。了解したのじゃ、ご主人サマよ」
 青い髪の少年の指示を受け、後方の2隻の船まで飛ぶ漆黒の髪の少女。

「なんじゃ。どちらの船も、まだ持ち堪(こた)えておるではないか」
 感心しつつも、剣を振るうルーシェリア。
イ・アンナの重力操作で、船に群がるハル・ピュイアたちは尽(ことごと)く海に沈んで行った。

「お、おのれ。よくもこのニコトエに、恥をかかせてくれたな。覚えておれ……」
 海から這い上がった隊長格のハル・ピュイアは、捨て台詞を吐いて島の方へと飛び去る。

「ニコトエと言うのか。覚えておいてやろう」
 遠く羽ばたくニコトエの後ろ姿にそう呟くと、ルーシェリアは元居た船に舞い戻った。

「アンタ、とんでもねェ強さだな。あれだけ群がってたハル・ピュイアを、全員海に沈めちまうたァよ」
 漆黒の髪の少女を出迎える、船長の驚きの声。

「船長こそ、ずいぶんと腕が立つではないか。他の2隻にも、腕の立つ者が乗っておるのかえ?」
「まあな。レプティスとタプソスは、オレと同じ部隊で傭兵として戦った仲だ」
「それは、頼もしいのォ」

「うん。人も積み荷も、無事で何よりだよ」
 舞い戻ったルーシェリアの元に、駆けつける因幡 舞人。
その両脇に、2人の少女の姿があった。

「ご、ごめんなさい、ルーシェリアさま」
「わ、わたし達、怖くて船の外に出られませんでした」
 ルーシェリアに謝る、ルスピナとウティカ。

「そんなコトで謝らずとも良い。お主らの師匠も、外の世界を見て来いとは言っておったが、戦って来いとは言っておらなんだじゃろ」

「そうだぜ、ルスピナ、ウティカ。戦いなんてモンは経験しなくていいんなら、しねェ方がいい。血生臭い戦場なんざ、お前たちには似合わんぜ」
 船長も舵輪を廻して、航路を修正する。

「なんじゃ。船長と大魔導士の高弟たちは、知り合いだったのかえ?」
「まあな。ルスピナはウチの村の娘だし、ウティカも付き合いのある山の村の娘だからよ」
 2人の少女たちは、ティンギスにすり寄っていた。

「津波で、大勢の女子供も犠牲になっちまった。コイツらくれェは、護ってやんねェとな」
「フフ……そうじゃな」
 舵を取る船長の背中に、ほほ笑みを向けるルーシェリア。

 3隻の商船は、クレ・ア島の港に進路を向けた。

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一千年間引き篭もり男・第08章・22話

メキシカングルメ

 1000年後の未来に置いては、『死』と言う概念すら曖昧(あいまい)なモノとなっていた。

「ま、確かにな。今じゃ人工子宮で、あらかじめ自分のコピーを作って置くヤツらも居るくらいだ」
 ドス・サントスさんの顔を見ながら、プリズナーが嘯(うそぶ)く。

「オレァ、これでも国家元首だからな。暗殺の危険は、常に付きまとうモンでよ」
 機嫌を損ねた国家元首は、再びボトルを開け酒を飲み始めた。

 そりゃそうだ。
夢の中で、貴方はボクに暗殺されている。

「だが場合によってはよ、艦長。眠らせておくハズのコピーの方が起きちまって、本物を殺すなんて事件も起きてんだぜ」

「まるで、コメディだな」
「コメディさ。結局のところ、コピーはコピーでしかねェ。自分が殺されてコピーが残ったところで、自分自身は死じまってンだからよ。意味がねェ」

 合理主義の、元少年兵が言った。
幼くして戦場を駆けていたプリズナーの死生観は、ドライにならざるを得なかったのだろう。

「だが例えコピーであろうが、本物と同じ役割を演じるコトはできるぜ」
「独裁者のコピーが、独裁者を演じるってか。コイツァ、お笑い種だ」
 ドス・サントスさんに、事あるごとに反発をするプリズナー。

「そのヘンにして置きなさい、プリズナー。ところで奪還したセノーテ予定地に、実際に貯水槽が建設されるのはいつになるのです?」

「部下の働き次第ではあるが、そうだな。上手く行けば、あと半年と言ったところか」
「やはり、それくらいはかかるのですね」
「仕方ねェだろ、大使殿。こちとら、魔法使いじゃねェんだ」

「だが相手は、魔法使いだぜ。時を戻す魔法でも使ったのか、木っ端みじんになったハズのマーズを、完璧に復活させちまったんだからな」

「にわかには、信じられんな。どうせクローン技術でも、使ったんだろう」
「クローンじゃ、脳の記憶まではコピーできねェ。クローンなんざ、疑似的な双子に過ぎねェからよ」
「あらかじめ、洗脳でもして置いたんじゃねェのか?」

「実際に見ないコトには、理解できないのでしょうがね、代表。残念ながら時の魔女は、我ら人類の叡智を、遥かに超えた存在なのですよ」
 メルクリウスさんの真剣な眼差しに、ドス・サントス代表がそれ以上反論するコトは無かった。

「なんにしろ、半年の間に魔女の手下どもの襲撃が、皆無だなんてコトは考えられねェ」
 キャラメル色のソファーから、立ち上がるプリズナー。

「確かに、時の魔女を相手に楽観主義が過ぎますね」
「そうかよ。大使殿がそこまで言うんなら、部隊の増強を考えんとな」
「ええ、そうしていただけると、助かります」

 メルクリウスさんと連れ立って、シーリングファンの周るリビングを出て行った。

「アンタもご苦労だったな、冷凍睡眠者(コールド・スリーパー)。部隊の増強についちゃあ、オレの仕事だ。アンタも、セノーテを好きに使ってくれて構わないぜ」
 夢の中のドス・サントスとは、明らかに態度が違う。

「では、そうさせて貰います」
 ドス・サントスさんと2人きりと言うのも気まずいので、ボクもラウンジを出た。

 岩盤を縦に掘削した巨大な穴に、ショッピングモールのように部屋が連なる構造のセノーテ。
日本人と似た顔立ちの大勢の人が暮らし、活気に溢れている。

「あ、オヤジじゃん」
「どうしたんだ、セノーテの見学か?」
「なんなら、アタシらが案内してやろうか?」

 声をかけてきたのは、ボクとショチケの3人の娘たちで、パイロットスーツとは違うカラフルな普段着を着ていた。

「この上の階に、美味いポソレの店があるんだよ」
「あ。ポソレってんのは、トウモロコシのスープだよ」
「腹も減ったし、喰いに行こうぜ」

 マクイ・サントスの3人の娘も、ボクの両脇に群がって来る。

「ええ、セビーチェのがイイって」
「ワカモーレのが、美味しいだろ」
「いいや、絶対にトラユーダだ」

 チピリの3人の娘たちも、なにを食べるかで意見が割れた。
ボクはそれから、大量のメキシコ料理を堪能するハメになった。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第14話

試験(テスト)と言う名の審判

 まだ観客が、入場途中のライブ会場。
突発ゲリラライブだと言うのに、大勢の観客がすでに入り始めていた。

「1つ、聞いてもいいですか?」

「ン、なんだね。答えられるコトなら、答えるが……」
 久慈樹社長は、巨大な塔のそびえるステージから戻って来ると、足を組んでVIP席に座る。

「ボクの、生徒たちのコトです。どうして社長は、彼女たちをアイドルにしようと思ったのですか?」
 それだけは、どうしても直接聞いて置きたかった。

「アイドルオタクでもないボクが、どうしてアイドルなんかのプロデュースをしてるのかって?」
 久慈樹社長は、ボクが感じていた違和感をそのまま口にする。

「そうだな。愚民どもが、偶像(アイドル)を求めているからさ」

「本来の意味での……アイドルですか」
「偶像を崇める行為は、一神教などでは禁止されちゃあいるが、この国はそこら辺大らかだからね」
 まあ掛けたためよとばかりに、手招きをするユークリッドのオーナー。

「別に、誰かをアイドルとして崇めるヤツらを、咎(とが)めているワケじゃないさ。人は多かれ少なかれ、憧れのアイドルってヤツを持っている。それがアイドル歌手の場合もあれば、サッカーや野球などのスター選手の場合もあるだろう。場合によっては、歴史上の偉人ってコトもね」

「最近じゃ、動画配信者ってパターンもありますよ」
 他の実例を提示しながら、ボクは社長の隣に座った。

「おっと。ボクとしたコトが、肝心なのを忘れていた。瀬堂 癒魅亜(せどう ゆみあ)も、そうやってアイドルとして認知されて行ったのだ」

「アイドルを目指してもいないのに、そうなってしまう人間も居るってコトですね」
「どうだろうか。女性ってのは、男にチヤホヤされたいって言う気持は、多かれ少なかれ持っているんじゃないかな」

「ユミアも、持っていたってコトですか?」
「そりゃ、そうだろう。嫌がっているフリをして、随分と楽しそうだったからね」
 女性に関するウワサが、絶えたコトがない男が言った。

「女ってのは、見栄っ張りな生き物なのさ。特に、男に対してはね。自分の達成したい目標を、出来る限り自分は動かずに、周りをコントロールして成し遂げようとする」
「そ、そんなモノですか……」

「本当に嫌がっていたら、あんな笑顔はできないさ」
 久慈樹社長は、ガラス張りの塔を見上げている。

「それを、あざといと妬(ねた)む女も居るがね。他の女が、上手いコト男をモノにしているのが、気に食わないのだろう。そう言うゲームだと言うのに、愚かなヤツらだよ」

 久慈樹 瑞葉は、女性と言う生き物をとことん見下しているように感じた。
……と同時に、どこか神聖視しているようにも思える。

「さて、もうすぐキミにとって、ユークリッドでの最後となる可能性のある、ショーが始まる」
 久慈樹社長は、ボクにそう宣告した。

 いつの間にやら、巨大なすり鉢状の観客席に、大勢の観客が詰まっている。
これだけ大勢の人間が、ボクの生徒である少女たちを目当てに、遠路はるばる押しかけて来ていた。

『皆さま。本日はご来場いただき、誠にありがとうございます。開幕、20分前となりました』
『これより一旦照明を落としますので、ご移動の際は足元にお気を付け下さい』

 レアラとピオラの声でアナウンスがされ、直後に照明が落とされる。
昼間のライブなので、ドーム会場と言えどそこまで暗くはならずに、天窓からは自然光がステージ上に降り注いでいた。

「ボクは前に、壮大な実験をしていると言ったね」
 目の前のガラスの塔は、キラキラと輝いている。

「はい。その実験の答えが、今日のステージですか?」
「まあ、そんなところさ」

 塔のガラスに、ユミアやレノン、タリアやライアなど、ユークリッドのアイドルたちの表情が並んだ。
数多のガラスパネルの中の映像は、次々に移り変わり激しくBGMが鳴り響く。

「今日のライブで、彼女たちに試験(テスト)と言う名の審判が下される」
 いよいよ、最終ステージの幕が上がってしまった。

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キング・オブ・サッカー・第8章・EP023

熱田 折火(あつた オリビ)

 ヴァンドームさんの左脚から放たれた、芸術的な弧を描いた直接フリーキックで、同点に追いつかれてしまったボクたち。

「スマンな、オレがファウルをしてしまったばかりに」
 チームメイトに、謝罪するロランさん。

「だが、元より撃ち合いは覚悟の上なんだろ、ロラン」
 イヴァンさんが、点ならいくらだって決めてやるとばかりに言った。

「そうですね。現状、こっちの守備力では、白ビブスの攻撃は凌ぎ切れません。より点を多く決めるしか、方法は無いかと」

「おい、オリビ。オメー、失礼じゃねェか」
「いくらレギュラーだからって、オレたちだってプロなんだぜ」
「ああ。次こそはシュートを、防いでみせるさ」

 オリビさんの言葉に反発する、青ビブスのチームメイトたち。
彼らは普段なら控え組だケド、紅白戦は絶好のアピールの場であり、下剋上の場でもあるんだ。

「プロを豪語するのであれば、それは結果で証明して見せて下さい」

「な、なんだと!」
「オリビ、テメー調子こいてんじゃねェぞ」
「結果見せろってんなら、見せてやろうじゃねェか」

 オリビさんの巧みな話術で、闘志を見せるチームメイトたち。
それから試合は再開され、ロランさんが再びボールを持った。

「今度は抜かせないよ、ロラン」
 やはりと言うべきか、アルマさんがロランさんのマークに付く。

「ソイツは、どうですかね」
 突破を試みるも、アルマさんに身体を寄せられ、思う方向にドリブルが出来ないロランさん。
その様子を、ベンチの壬帝オーナーも見ていた。

「フッ、アルマは優れたボランチだ。ロランやスッラのような派手なテクニックは無いが、相手を抑え抜かせないコトに関しては、アルマの方が勝っているのだよ」

 壬帝オーナーの思惑通りに、右サイドへと追い詰められていくロランさん。
突破は無理と判断し、中央のオリビさんへとボールを戻した。

「ロランが抑えられている……だが、厄介なアルマさんが居ないこの状況」
 相手はアルマさんのワン・ボランチのため、中央のコースはセンターバックまで空いている。

「オリビ、後ろから来ているぞ!」
「気を付けろ!」

 他のチームメイトからの指摘の通り、後ろから攻撃的なワイドに開いていた中盤2人が、オリビさんのボールを奪おうと迫っていた。

「了解ですよ、先輩方」
 オリビさんは、ハの字で迫る2人の間を、ヒールキックでパスを通す。
センターバックがボールを受けたのを確認すると、そのまま中央のレーンを走り始めた。

「オリビ、頼んだぜ」
 青いビブスのセンターバックが、オリビさんにロングボールでパスを返す。
立ち止まってしまった攻撃的ワイドの2枚は、完全に置いていかれてしまった。

「だが、パスが正確では無いな。だから控え組なのだがね」
 イヴァンさんをマークするヴィラールさんが、なにやらフランス語で呟いている。

 パスは左サイド寄りに逸れ、オリビさんも走る軌道の修正を余儀なくされた。

「よし、なんの問題もない」
 けれどもオリビさんは、後ろから来るロングボールを、難なく足元で処理する。

「ほう、見事なトラップじゃねェか」
 ボクをマークするヴァンドームさんも、フランス語を言った。
タブン足に吸い付くようなトラップを、褒めているんだと思う。

 そのまま左寄りをドリブルする、オリビさん。
その前に、相手の右サイドバックが付こうとしていた。

 右サイドバックは、べリックさんだ。
オリビさんでも、ドリブルを止められる可能性がある。

 そう判断したボクは、ペナルティエリア中央から、べリックさんの護っていた左サイドに走り出した。

「ナイス判断だ、一馬」
 べリックさんは、ボクの背後への走り出しを警戒して止まり、オリビさんは僅かな隙をついてペナルティエリア中央へと進出する。

「こっちだ、オリビ!」
 右サイドで、アルマさんを引き連れたロランさんが手を挙げた。

「イヤ、オレに寄こせ、オリビ!」
 1点目を決めた、イヴァンさんもボールを要求する。
けれどもイヴァンさんには、ヴィラールさんがマークに付いていた。

「ヤレヤレ、オレも舐められたモノだね」
 オリビさんの選択は、パスでな無くドリブルでの中央突破だった。

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ある意味勇者の魔王征伐~第13章・30話

クレ・ア島

「クレ・ア島の半分を治めるのが、ミノ・リス王と言う人物でな。なんでも北方の小さな島国の連合に戦争を仕掛けて制圧し、貢物を差し出させているそうじゃ」

 潮風に自慢の黒髪を靡かせながら、ルーシェリアが言った。
一行は今、3隻の中型船で船団を組んで、クレ・ア島にあるラビ・リンス帝国の王都、クノ・ススへと向っている。

「なんで偉い人って、戦争をしたがるんだろ。領土を広げて、なんの意味があるんだ」
 戦争孤児である舞人は、戦争を好む王の気持ちが理解できなかった。

「意味なら、あるではないか。人間の国などと言うモノは、戦争をして勝った者たちが領土や権利を主張できるのであろう。先祖が血生臭い行為で勝ち取った土地に、ご主人サマも住んでいるのじゃよ」

「それを言われると、そうなんだケド……」
 元魔王の少女とは、やはり価値観が違うと感じる舞人。

「今回の潜入捜査など、カル・タギアによる内政干渉に外ならぬのじゃ。バルガ王を始め政権幹部が介入するのを嫌がる任務を、ご主人さまは考えなしに引き受けおって」

「バルガ王は、ただ戦争を止めようとしてるだけだろ」
 分が悪くなった舞人は、青い髪を掻きながら目線を逸らす。

「ご主人サマは、戦争を止められる自信があるのじゃな?」
 ルーシェリアは、その任務の意味を舞人に問いただした。

「あ、あるワケ無いだろ」
「ヤレヤレじゃのォ。自信満々に、言うでないわ」
 即答する舞人に、呆れる漆黒の髪の少女。

「でも、もし止められるんなら、戦争を止めたい。大勢の人たちが、死なずに済むなら……」
 ルーシェリアの瞳に映った少年は、純粋にそう言った。

「まったく……ヤレヤレじゃの」
 踵(きびす)を返し、船首の方へと歩いて行く元魔王の少女。

 その先には、鼻歌を歌いながら舵を操る、船長の姿があった。
船長は、コーヒー色の肌をした痩せ気味の巨漢で、貝殻で装飾した長いドレッドヘアをしている。

「ずいぶんと、ご機嫌じゃのォ。これから、きな臭い国に行くと言うに」
「オレは漁師だったんだが、こないだの津波で船をやられちまってよ。でもバルガ王が、こんな立派な舟をくれたんだ。中古だって言うが、これだけ走れば文句はねェぜ」

「この船は、漁船ではなく商船なのじゃろう。構わんのか?」
「そりゃ、漁船に越したコトァねェがよ。海の上に居られるだけ、マシさ。ウチの漁村は貧しくてよ。漁ができない冬なんかは、傭兵として戦争に行ってたくらいさ」

「人の世も、難儀が多いのォ」
 船長の話を聞き、ルーシェリアは人間の世界の大変さを再認識した。

「ところで船長は、なんと言う名じゃ?」
「オレは、ティンギスってんだ。それより嬢ちゃん。こっから先は、ヤバい海域だぜ」
 商船の船長は、暗くなった前方の空をアゴで指し示した。

「アレが、クレ・ア島じゃな。ずいぶんと、巨大な島じゃのォ」
「そりゃあ、相当デカい島だぜ。こっから北に存在する島国の城塞都市(ポリス)群を、制圧しちまってるくらいだからな」

 島は、陸に辿り着いたのかと見紛(みまご)うほどに巨大で、大きな山が海岸からそびえている。
切り立った海岸線の手前には、中規模の大きさの島がいくつかあって、その周りには小規模な島が点在していた。

「島の南の辺りは、海岸線が入り組んでいる上に暗礁も多くてよ。海洋交通の、難所なんだ」
「なるホド、潮が渦を巻いておるわ」
 船の縁(へり)から、身を乗り出すルーシェリア。

「嬢ちゃん、落っこちるなよ」
「心配せずとも、妾は飛べるでの。ホレ、この通り……」
 コウモリの羽根を生やし、空中に飛翔する漆黒の髪の少女。

 その時、ルーシェリアを何かが襲った。

「のわッ! な、何じゃ!?」
 攻撃された頭を抑えて振り返ると、そこには羽根を生やした女性たちの部隊が空に舞っている。

「ヤッべ。ハル・ピュイアだ。いつの間にか、アイツらの領域(エリア)に入り込んじまってたんだ」
 慌てて舵を切る、ティンギス。
けれども島周辺の潮の流れは凄まじく、中々軌道を修正できない。

「ここは、我々ハル・ピュイアの領域だ。許可なく入る者は、誰であろうと容赦はせぬ!」
 羽根を生やした女性の中で、隊長格であろう人物が号令すると、彼女の部下たちは船の周りを旋回しながら、一斉に攻撃を仕掛けて来た。

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一千年間引き篭もり男・第08章・21話

ラウンジでの白昼夢

「それにしたって、大したモンだぜ。シュガールとか言う謎のサブスタンサーまで、倒しちまうとァよ。オレの見込んだ以上の働きをしてくれた」
 ドス・サントスさんが、酒瓶を何本か空にし、上機嫌になりながら言った。

「そんで、奪還したセノーテ予定地は、なんとかなったのかよ?」
 プリズナーが、キャラメル色のソファーに寝そべりながら、問いかける。

「オレがこんな場所(ラウンジ)で、昼間からテキーラあおってんだ。部下たちだけで、なんとかなるホドに順調だぜ」
 少しだけ、夢の中で死んだドス・サントスの雰囲気に近づく、現世のドス・サントスさん。

「ケッ、そうかよ。で、やっぱ襲って来たサブスタンサーは、ヨーロッパのタイプだったのか?」
「少なくとも、ベースとなる機体はそのようですね」
 ドス・サントスさんの替わりに質問に答える、メルクリウスさん。

「ライフルを持った機体は、改造されていたってコトですか?」
「ええ、ベースはエル・マタドールと呼ばれる機体なんですがね。ほぼ全身がチューンナップされていて、別の機体と言っていいくらいですよ」

「問題は、誰が改造したかってコトですね」
「そんなモン、時の魔女に決まってんじゃねェか」

 プリズナーが、時の魔女の名を出した途端、静まり返るラウンジ。
天井で周る、シーリングファンの風切り音が聞える。

「アンタらの会話に出てくる、時の魔女ってのは一体何者なんだ?」
 部屋の主であるドス・サントスさんが、ボクたちに質問した。

「残念ながらボクたちにも、正体は解らないんです。メルクリウスさんの方が、まだ詳しいかと……」
 ボクは、実際に時の魔女との交戦経験のある、優男に話を振った。

「そい言や、お前らディー・コンセンテスは、何百年か前に時の魔女と戦ってるんだよな?」
「そりゃホントかい、大使殿?」

「ええ、まあ。ですがボクも、時の魔女についてほとんど解っていないと言うのが、本音でして」
「逆に言えば、少しは解ってるってコトだろ。なにが、解ってる?」

「そうですね。まずは時空を超越した技術を有している、と言ったところでしょうか?」
「そりゃ、なんだ。言ってる意味が、理解できないんだが?」
 酒を飲むのを止め、グラスに氷を入れ水を注ぐドス・サントスさん。

「子供染みた言い方をすれば、ワープですよ。時の魔女はその配下の機体を、ワープによって直接送り込んで来るのです」

「火星のオリュンポス山に築かれたアクロポリスの街を壊滅させたのも、街の上空にいきなり現れた、無数のキューブ状の機体でした」
 ボクも、思い出したくもない火星での惨状を語る。

「なるホドな。シュガールにしろ、ヨーロッパのマスケッター(銃士)にしろ、どこからともなくいきなり現れたって言ってやがったな」
 ドス・サントスさんは、冷たい水を一気に飲み干して酔いを醒ます。

「そいつァ、厄介な話だぜ。だが、ワープ技術を持っているんなら、核爆弾でも直接ワープさせて起爆させた方が、手っ取り早くも思えるが」

「そればかりは、本人に直接会って聞く他ありませんね」
 メルクリウスさんは、南国フルーツがたくさん盛られたカクテルを飲みながら答えた。

「他に、なにか解ってるコトは無いのかい?」
「呼び出された機体には、ワープ機能は恐らく備わっていないってのはありますね」
 今までの体験を元に、推察するボク。

「宇宙斗艦長の言われる通り、火星で呼び出された多数の機体は、そのまま宇宙の何処かへと飛び立って行きました」
「その前に交戦したタコみてェな戦艦ですら、ワープして離脱するコトは無かったぜ」

 メルクリウスさんとプリズナーも、ボクの説を支持し補完してくれた。

「要するに、どこかにワープ装置みてェなのがあって、それを通って来るって考えた方が自然か?」
「その可能性が高いとしか、言えませんね……」
 空になったグラスを置き、ため息を吐き出すメルクリウスさん。

「他にも、死人を生き返らせるってのもあるぜ。火星圏での艦隊戦で死んだハズのマーズが、生き返って火星でふんぞり返ってやがる」

「へえ、そうかい。だが今の時代、死人が生き返るってのも、珍しいコトじゃねェだろ?」
 酔いの醒めた、ドス・サントスさんが言った。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第13話

ガラスの虫かご

 弁護士のタマゴと、世界を股にかけるIT企業トップとの対決は、人生経験の差からか久慈樹社長に軍配が上がった。

「だけどその企業も、よく違法な営業をして置いて、裁判に勝てたわね」
 納得の行かないユミアが、なおも喰い下がる。

「男はね、ユミア。務めていた企業を、SNSなどでブラック企業と激しく罵(ののし)ったの。それを企業側が、名誉棄損として訴えたのよ」
 それに答えたのは、久慈樹社長では無くライアだった。

「ブラック企業をブラック企業と言って、なにが悪いって言うの?」

「裁判所は、企業の違法営業を認めつつも、完全にブラック企業とまでは言えないという、微妙な判決を降した。心が折れたのか、男は上告を断念したわ……」
 弁護士のタマゴは、申しワケ無さそうに顔を伏せる。

「流石は、弁護士のタマゴだ。過去の判例は、履修(りしゅう)済みと言うコトだね」
 ユークリッドの社長は、わざとらしく手を叩いてライアを褒め称えた。

「過った過去の判例は、いずれ正さねばなりません」
「キミが、正してくれるとでも?」
「将来的には、そうありたいと思っています」

「キミの正義が、いつまでねじ曲がらずに居られるか見物だね」
 久慈樹社長は、ボクたちに背中を向ける。

 新兎 礼唖(あらと らいあ)の、弁護士にかける決意は本物なのだろう。
その決意が歪まないように、ボクは願った。

「さて……ボクたちはそろそろ、ライブ会場へ移ろうじゃないか」
「え?」
 久慈樹社長のいきなりの提案に、驚いてしまうボク。

「オイオイ。レディの着替えを覗く気かい、キミは?」
「い、いえ。そのような破廉恥(はれんち)なマネは、しませんよ」
 慌てて控室の前から、走り去る。

 ライブ会場に入ると、ザワザワとした声がそこら中から聞こえて来た。
辺りを見渡すと、4方8方を取り囲むスタンドに、観客たちが入り始めている。

「大した『試験会場」ですね」
 ボクは、嫌味を織り交ぜて言った。

「気に入って貰えて、なによりだよ。これだけの観客に囲まれながら試験を受けるなんて、前代未聞だろうからね」

 そりゃあ、前代未聞でしょうとも。
今まで誰が、アイドルのライブステージで試験を受けたと言うのか。

「テストを受けるのは、キミではなくキミの生徒たちだ」
 硬くなったボクの肩を、ポンと叩く久慈樹社長。

「もっとも生徒たちの1人でも落第点を取れば、キミはユークリッドを去るコトとなる。キミにとっても、実質テストと変わらないと言うのは、理解できるのだがね」

 天使のような笑顔を見せる、久慈樹社長。
その笑顔の裏側に、まだ底知れぬ悪意が潜んでいるように思えた。

「さて、キミには生徒たちが試験を受ける様子を見られるよう、特等席を用意して置いた。もっとも、デビューライブのときと同じ席なんだがね」
 以前と同じ、ステージの真正面の席に案内される。

「ここって、前と同じ席なんですか。かなり、場所が違うような」
「イヤ、同じではあるさ。ただ、あのときとはセットやらステージやらの配置が、まったく異なるからね。なんと言っても、今回のゲリラライブのメインは、テストなのだから」

 久慈樹 瑞葉の見上げる中央ステージに、巨大なガラス張りの塔が建っている。
塔は円筒形で、明らかに天空教室の入っている超高層タワーマンションを模していた。

「ここが、キミの生徒たちがテストを受けるステージだ。どうだい、相応(ふさわ)しいだろう?」
 隣の男が、ボクの顔を覗き込んでいる。

「とてもそうは、思えませんが……」
「これでも、テストを受ける環境を整えようと、善処はしているんだよ」
 社長は、ステージの塔の袂(たもと)に歩み寄って、説明を開始する。

「塔を囲むガラスは全て完全防音で、観客席の大歓声すら遮断する。それに外から中の様子は確認できるが、中から外の様子は見えない設計になっているんだ」

「マジックミラーって、コトですか。まるで、取調室みたいですね」
「ボクとしては、虫かごに近いイメージだったのだがね」

 ムッとする、ボク。
けれども久慈樹社長の悪意は、まだまだ序の口に過ぎなかった。

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