プレジデントたちのフィナーレ
ユークリッドの誇るアイドルたちのデビューライブは、まだ序盤を過ぎただけだった。
白熱するファンたちの注目を、一身に浴びるボクの生徒たち。
眩いスポットライトを、今度はメリーが浴びていた。
「八木沼 芽理依(やぎぬま めりい)。彼女も最初は、ボクに反発していた。だけど、いつの間にか彼女も、先生を志すようになっていたんだ……」
教室のセットの、新緑色の黒板の前で、眼鏡をかけた厳しそうな先生のコスチュームで歌う少女。
ボク自身は、ネットで見た昭和の熱血教師ドラマに憧れて、教師になるコトを志した。
けれども、現実(リアル)の生徒たちは、先生の手助けなど借りなくても、勝手に問題を解決し成長して行くのかも知れない。
「ボクも、うかうかしてられないな……」
ボクよりも遥かに大勢の生徒(ファン)を相手に、授業をするメリー。
黒板は昔ながらのタイプではあったが、チョークで書かれた絵やら数式やら音符やらが、次々に現れた。
「曲が短いパートに別れていて、それぞれの授業内容を歌詞にしているのか」
イントロはあったものの、Aメロ、Bメロ、サビと別れている訳では無い曲構成に感心する。
「今まで聞いたどの曲も、全て神曲じゃないか。アイツが作った曲と比べて、悪いが雲泥の差だな……」
ボクは友人が作曲した曲を、何曲か先に聞かせて貰っていた。
やはり、AIがビッグデータを元に作詞・作曲した 曲には、遠く及ばない。
「ボクも……デジタルが苦手なんて、言ってられないのかもな」
舞台では、ソロ曲を歌い終えた4人が、今度は4人組(カルテット)としての歌を熱唱する。
激しいロック調の曲が、会場のボルテージを最大限に引き上げた。
耳の鼓膜を突き破りそうな歓声と、会場を飛び回るスポットライト。
「これが……アイドルのステージなんだ……」
会場の風を、目の当たりにするボク。
カルテットとしての3曲目は、アカペラ的なバラード調の曲となり、会場に溢れたファンたちも、4人のハーモニーに聞き惚れる。
「アイツら、こんなに歌が上手かったのか……それとも、レアラとピオラの計算された構成のお陰か?」
エリアのソプラノからテミルのダミ声っぽい低音まで、4人の個性的な声が上手く重なって、美しい曲に仕上がっていた。
「皆さん、今日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます」
深々と、丁寧なお辞儀をするライア。
「ライアっち、受付嬢っスか。マジメ過ぎっスよ?」
テミルの指摘に、会場から笑いが起きる。
「そ、そうかしら。誠に、失礼いたしました」
「だから、マジメか!!」
「アハハ、ライアは ホント、マジメなんだ」
「テミルはともかく、メリーとエリアだってけっこうマジメじゃない」
メリーとエリアからも、突っ込まれたライアが反論した。
「そうね……言われてみれば」
「わたしは、そこまでマジメじゃないかな、ウン」
「アタシだけ、アホっぽい言い方じゃないっスか!?」
「それじゃ最後の曲、行くわよ」
「無視すんなっス!」
再び会場が、笑いに包まれる。
「アイツらの教師としては、見ていて冷や冷やしたが、中々のMC……なのかな?」
するとステージに、アイドルらしいアップテンポの曲が流れ始めた。
吊り下げられた4面パネルに映る、4人の少女。
天井のクリアパネル全体が、小さな3角のスクリーンへと切り分けられ、そこにもあらゆる角度から映した4人の姿が浮かぶ。
「ライアー、ジャスティス!」
「メリー、メリー!」
「テミルっちィーー!」
「エ・リ・ア! エ・リ・ア!」
広大なすり鉢状の観客席に揺れる、無数のケミカルライト。
アイドルファンたちのボルテージはマックスに達し、曲が終わっても彼女たちのグループ名のコールが行われた。
「プレジデントカルテット!」
「プレジデントカルテット!」
「プレジデントカルテット!」
アイドルのコトなど殆ど知らないボクでも、思わずコールに加わってしまっていた。
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