ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第08章・第04話

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プレジデントたちのフィナーレ

 ユークリッドの誇るアイドルたちのデビューライブは、まだ序盤を過ぎただけだった。

 白熱するファンたちの注目を、一身に浴びるボクの生徒たち。
眩いスポットライトを、今度はメリーが浴びていた。

「八木沼 芽理依(やぎぬま めりい)。彼女も最初は、ボクに反発していた。だけど、いつの間にか彼女も、先生を志すようになっていたんだ……」
 教室のセットの、新緑色の黒板の前で、眼鏡をかけた厳しそうな先生のコスチュームで歌う少女。

 ボク自身は、ネットで見た昭和の熱血教師ドラマに憧れて、教師になるコトを志した。
けれども、現実(リアル)の生徒たちは、先生の手助けなど借りなくても、勝手に問題を解決し成長して行くのかも知れない。

「ボクも、うかうかしてられないな……」
 ボクよりも遥かに大勢の生徒(ファン)を相手に、授業をするメリー。
黒板は昔ながらのタイプではあったが、チョークで書かれた絵やら数式やら音符やらが、次々に現れた。

「曲が短いパートに別れていて、それぞれの授業内容を歌詞にしているのか」
 イントロはあったものの、Aメロ、Bメロ、サビと別れている訳では無い曲構成に感心する。

「今まで聞いたどの曲も、全て神曲じゃないか。アイツが作った曲と比べて、悪いが雲泥の差だな……」
 ボクは友人が作曲した曲を、何曲か先に聞かせて貰っていた。
やはり、AIがビッグデータを元に作詞・作曲した 曲には、遠く及ばない。

「ボクも……デジタルが苦手なんて、言ってられないのかもな」

 舞台では、ソロ曲を歌い終えた4人が、今度は4人組(カルテット)としての歌を熱唱する。
激しいロック調の曲が、会場のボルテージを最大限に引き上げた。
耳の鼓膜を突き破りそうな歓声と、会場を飛び回るスポットライト。

「これが……アイドルのステージなんだ……」
 会場の風を、目の当たりにするボク。

 カルテットとしての3曲目は、アカペラ的なバラード調の曲となり、会場に溢れたファンたちも、4人のハーモニーに聞き惚れる。

「アイツら、こんなに歌が上手かったのか……それとも、レアラとピオラの計算された構成のお陰か?」
 エリアのソプラノからテミルのダミ声っぽい低音まで、4人の個性的な声が上手く重なって、美しい曲に仕上がっていた。

「皆さん、今日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます」
 深々と、丁寧なお辞儀をするライア。

「ライアっち、受付嬢っスか。マジメ過ぎっスよ?」
 テミルの指摘に、会場から笑いが起きる。

「そ、そうかしら。誠に、失礼いたしました」
「だから、マジメか!!」
「アハハ、ライアは ホント、マジメなんだ」

「テミルはともかく、メリーとエリアだってけっこうマジメじゃない」
 メリーとエリアからも、突っ込まれたライアが反論した。

「そうね……言われてみれば」
「わたしは、そこまでマジメじゃないかな、ウン」
「アタシだけ、アホっぽい言い方じゃないっスか!?」

「それじゃ最後の曲、行くわよ」
「無視すんなっス!」
 再び会場が、笑いに包まれる。

「アイツらの教師としては、見ていて冷や冷やしたが、中々のMC……なのかな?」
 するとステージに、アイドルらしいアップテンポの曲が流れ始めた。

 吊り下げられた4面パネルに映る、4人の少女。
天井のクリアパネル全体が、小さな3角のスクリーンへと切り分けられ、そこにもあらゆる角度から映した4人の姿が浮かぶ。

「ライアー、ジャスティス!」
「メリー、メリー!」

「テミルっちィーー!」
「エ・リ・ア! エ・リ・ア!」

 広大なすり鉢状の観客席に揺れる、無数のケミカルライト。
アイドルファンたちのボルテージはマックスに達し、曲が終わっても彼女たちのグループ名のコールが行われた。

「プレジデントカルテット!」
「プレジデントカルテット!」
「プレジデントカルテット!」

 アイドルのコトなど殆ど知らないボクでも、思わずコールに加わってしまっていた。

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キング・オブ・サッカー・第7章・EP003

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清棲デッドエンド・ボーイズ

「喜べ、お前たち。地域リーグ・加入承認の知らせが、届いたぞ!」
 それは、4月も最終週に突入しようとしている時期だった。

「マジっスか、倉崎さん!?」
「ああ、マジだ、紅華」
 ポスティングを終えたボクと黒浪さんが事務所のドアを開けると、そんな会話が飛び込んできた。

「おめでとうございます、倉崎さん!」
「Excellent(エクセレント)!!」
 普段は冷静な、雪峰さんと柴芭さんが、ハイタッチで喜んでいる。

「イヤ、これも雪峰や柴芭が、書類を整え、各方面にも手を回してくれたお陰だ」
 まだ脚のケガも癒えない倉崎さんが、椅子から立ち上がって2人をハグした。

「いえ、倉崎さん。我々だけの力では、ありません」
「海馬コーチや龍丸たちが街頭に立って、リーグ加盟の署名集めや、チラシを配ってくれましたからね」
 ボクたちがポスティングをしている間、他のメンバーは署名とサポーター集めをしてくれていた。

「オレさまたちだって、ポスティングで頑張ったぜ。なあ、一馬!」
 ボクも、ウンウンと首を縦に振る。

「お前たちも、よくやってくれた。これでアイツの夢も、少しは叶えられたのかもな……」
 チームオーナーの机に置かれた写真立てに、目をやる倉崎さん。

 倉崎さんの弟は、病気で無く亡くなっていた。
ボクが倉崎さんから預かったスカウトノートも、元はと言えば弟のヤコブさんが、病を押してまで作ったノートなんだ。

「しっかし、よく申請が通ったっスね。オレてっきり、今年はムリだと思ってましたよ」
「ま、まあな」
 ナゼか、倉崎さんの目が泳いでいる。

「実際、普通なら申請は通らなかったと思うぞ、紅華」
「事務所も決めて無かったですし、フランチャイズタウンすら未定でしたからね」
 2人の優秀なスタッフが、言った。

「そうだよな、柴芭。んでけっきょく、どこがホームタウンになったんだ?」
「お前、先週話したろ。名北と清棲とでもめて、清棲になったんじゃねェか!」
「ああ、アレか。そうだった、そうだった。確かチーム名が……」

「『清棲デッドエンド・ボーイズ』……それがこのチームの、正式な名前だ」

 倉崎さんが、言った。
ボクが所属するチームは、やっと正式な名前を手に入れたんだ。

「正しく、ロスタイムに決勝ゴールってヤツね、倉崎」
 事務所のドアが開き、ヘトヘトになったメタボなオジサンが入って来る。

「お疲れ様です、セルディオスさん。この度は、ありがとうございました」
 うやうやしく頭を下げ、冷えたお茶を渡す倉崎さん。

「まったく……倉崎はもう少し、計画性を持つね。もうこんなの、懲り懲りよ」
「ハイ、わかってます、セルディオスさん」
 今度は茶菓子と、おしぼりをテーブルに置いた。

「な、なあ、今日の倉崎さん、妙に低姿勢だよな?」
「ああ、どうしてあんなに、ペコペコしてやがるんだ?」
 顔を見合わせる、黒浪さんと紅華さん。

「実は、デッドエンド・ボーイズが晴れて地域リーグに加盟できたのはだな。セルディオス監督が、地域リーグを運営するサッカー関係者や役員たちに、頭を下げて周ってくれたコトが、成功の1番の要因でもあるんだ」

「マジか、雪峰。あのメタボリッカー、そんなに顔が利くのかよ?」
「監督は古くから、日本サッカーを指導されてこられた方だ。その教え子が監督となり、プロのサッカープレーヤーにもなっている」

「おっちゃん、マジスゲーんだな」
「黒浪も、紅華も、少しは解って来たね。もっと尊敬して、構わないよ」
 待合室のソファーに寝転び、お茶を飲む監督。

「セルディオスさん、ビール買って来たっスよ」
 再び事務所のドアが開き、両手にビールの入った袋を持った、海馬コーチが入って来た。

「わお、待ってたね。さっそく、地域リーグ加盟祝いよ!」
「で、では、自分も……」
「海馬は、もっと痩せてからにするね。この間の試合、何点取られ……」

「ま、まあまあ。今日くらい、固いコトは抜きにしましょうよ。ささ、まずは1杯」
「そ、そう、仕方ないね……とと」
 弟子のメタボキーパーの杓を受ける、セルディオス監督。

「オイオイ、昼間っから酒を飲み始めちまったぞ」
「ど、どうすんだ、めっちゃビール買って来てるし」

「どうすると言われましても、こればかりは……」
「どうしようも、あるまい」
 柴芭さんや雪峰さんすら、サジを投げる。

 日が沈む頃には、事務所の待合室のソファーに、2匹のアザラシが寝転がっていた。

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ある意味勇者の魔王征伐~第12章・01話

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キティオン

「浅い大陸棚に位置し、美しい珊瑚に覆われたカル・タギアも、酷く荒れてしまった」
 水浸しとなった海底の街の図書館で、若き海洋生物学者が言った。

「だが、このカル・タギアには、まだ先人の知識が残されている。伝説だと思われていた、アト・ラティアが復活し、サタナトスの手に堕ちた今、せめてその謎の一端でも紐解かねば……」
 背の高い本棚を前に、黒いローブを水に濡らし、小脇には本を数冊抱えている。

「シドンよ。お主、よくこんな水び出しの図書館で、文献を漁れるのォ」
 浮遊した漆黒の髪の少女が、海洋生物学者に文句を言った。

 分厚い本棚が並ぶ3階建ての円筒形の建物は、1階を進むには膝まで水に浸かる必要があり、2階へと続く階段には瀧のように水が流れている。

「あ、いたいた、シドン。バルガ王子が大変なんだ!」
 透き通った鎧を着た少女が、苦も無く階段の瀧を登って来た。

「なんじゃ、イカの小娘ではないか。妾たちは今、忙しいのじゃ」
「あ、キミも居たんだ。シドンの邪魔しないでよ。彼は、国王サマも目を掛けておられた、天才学者さんなんだから」

「いや、スプラ。ルーシェリア殿は、役に立ってくれているよ。知識の深さや多様性に置いて、わたしなど彼女には遠く及ばん」

「ええ、シドンがァ!?」
 驚きを顔いっぱいに表現する、スプラ。

「これで解ったかの。妾はお主のように、頭が透き通ってはおらぬでの」
「なんだってェ!!」
「コラコラ、止めないか、2人とも。王子が、呼んでいるのであろう?」

「そ、そうだよ。とにかく、早く来て」
 スプラの慌てように、シドンとルーシェリアも急いで後を追う。

「ど~いうコトだ、王子。姉さんが、死んじまったってのはよォ!」
 2人が向かった先の路地の向こうから、少女の怒鳴り声が聞こえて来た。

「なんじゃぁ、あの真っ赤な鎧の小娘は?」
 水の溜まった三叉路を折れると、カル・タギアの住人たちが輪になって集まっており、その中心には赤い鎧を着た少女が立っている。

「アレェ、バルガ王子は?」
 スプラが問いかけると、住人たちが一斉に同じ方向を指さした。

「どうやら王子は、あの穴の向こうのようじゃの」
 住人たちの指先には、建物があって大きな穴が開いている。

「ところで、あの小娘は誰じゃ?」
「あの子は、キティオン。死んじゃったティルスの、妹だよ……」

「そう……なのかえ」
 ルーシェリアは、少しだけ事態を把握した。
……と同時に、少女がどうして怒っているかも、理解する。

「アイツは……お前の姉は、オレを庇って死んだ……」
 穴の中から、傷付いたバルガ王子が現れた。

「だから、なんでだよ。そんなに強い、相手だったのか!」
 バルガ王子に詰め寄る、キティオン。
けれども王子は、それ以上の反論はしなかった。

「相手は、アト・ラティアの機械の巨人だ。それも、複数体が同時に襲って来たのだ」
「シドン……アンタまで付いていながら、どうにかならなかったのかよ!」
「どうにも、ならなかった。だからわたしは、王子に撤退を指示した」

「姉さんを置いて、オメオメと!」
「そうだ。撤退のとき、ビュブロスが身を挺してくれたから、王子やわたしは生きていられる」
 キティオンに歩み寄る、若き海洋生物学者。

「ビュブロスのヤツまで、死んじまったのかよ!」
「そうだぜ、キティ。兄貴はオレに王子を頼むって言って、逝っちまった」
 通りの向こうから、ベリュトスが現れる。

「言い訳するつもりは、無ェ。ティルスを死に追いやったのは、このオレだ」
「ふ、ふざけんな。どうしてアンタが付いていながら……姉さんは……うわああッ!」
 赤い鎧の少女は群衆を押し退け、泣きながら何処かへ駆けて行った。

「王子、キティの気持ちも、考えてあげて下さい」
「悪ィな、シドン。余裕、無ェわ」
 天を仰ぐ、バルガ王子。

「考える時間が、出来ちまうとな。今でもアイツが出て来て、説教されねぇかと思っちまうぜ」
 ボロボロになったドームは、なんとか海水を支えていて、あちこちに瀧が流れ落ちている。

「では、王子。戴冠式を行ってください」
「な……シドン、お前、なに言って……」

「バ、バルガ王子が、ダグ・ア・ウォン王の跡を、継がれるのですか!」
「こ、これは、素晴らしいコトだ!」
「わたし達にも、希望が湧いてきたわ」

 サタナトスによって破壊された、カル・タギアの街へと戻って来た住人たち。
けれども街は荒廃し、尊敬すべき海皇は、サタナトスの手で大魔王となってしまっていた。

「バルガ王子……ご決断を」
 うやうやしく、片膝を付くシドン。

「オ、オレが……海皇だってのか!?」
 戸惑う、王子。

「バルガ王!」
「新たな王の、誕生だ!」
「さっそく、戴冠の儀式の準備に取り掛かろうじゃないか!」

 周りを囲んでいた群衆が、湧き立つ。
傷付いた海底都市は、新たなる王を要求した。

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一千年間引き篭もり男・第07章・12話

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ヴィクトリア

「黒乃……まさかキミが生きて……!?」
 そう言いかけたボクは、言葉を詰まらせた。

 無数の星が煌めく宇宙を背景(バック)に、漂う4本の黒髪の束。
紫色のパイロットスーツは、肉付き豊かなの大人びた女性の身体を包んでいる。

「貴女は、黒乃じゃない……貴女は……」
 すると、クワトロテールのパイロットは、ボクの方へと降りてきた。

「わたくしは、ミネルヴァ。お久しぶりですね、宇宙斗艦長」
 大人びた時澤 黒乃の顔で、微笑む女性。

 黄金の髪留めから伸びた漆黒のクワトロテールに、気の強そうな細い眉毛。
彼女は、時澤 黒乃が命を失わずに、大人へと成長した姿としか思えなかった。
……そう、彼女は時澤 黒乃では無い。

「ミネルヴァさん……」
 心なしか、自分の声のトーンが落ちているコトに気付く。

 本物の彼女は、フォボスの地下深くで岩に圧し潰され、眠っている。
この期に及んでまだボクは、残酷な現実を受け入れられないのだろうか?

「アナタとは、アテーナー・パルテノス・タワーでお会いして以来ですね」
 パイロットスーツ姿のミネルヴァさんは、タワーの会議室での煌びやかなドレス姿とは違っていたが、やはり大人の女性の色香を感じさせた。

「はい。あの時の会議において、時の魔女が動き出したのを予見して置きながら、見す見す後手に回ってしまいました」

「それは、お互い様でしょう。我ら、ディー・コンセンテスも、時の魔女の侵攻を止められず、多くの火星の民を死なせてしまいました。あまつさえ、時の魔女の手先となったマーズによるクーデターまで、許すなど……」

 美しい顔の眉間にシワを寄せる、戦いの女神。

「ですがミネルヴァさんは、なにか目的があって火星を逃れたのですよね?」
「ええ、そうです」
「セミラミスさんも、一緒なんですか?」

「いいえ。セミラミスは、わたくしを逃がすために自身の機体(シャラー・アダド)を、差し出してくれました」

「そ、それじゃあ、セミラミスさんは!?」
「わたくしの身替わりとなって、アクロポリスの牢獄に捕らえられているのです。彼女の献身に報いるためにも、宇宙斗艦長には見て欲しいモノがあるのです」

「ボクに……見せたいモノ?」
「ええ、それはいずれ。その前に、ヴィクトリアに向かって下さい」

「ヴィクトリア?」
 イギリスの、女王みたいな名詞だ。

「地球のL2のラグランジュポイントにある、コロニー群の名称です」
「全艦隊で向かっても、構いませんか?」
「連絡は取れております。問題は無いでしょう」

 ボクは艦橋まで、ミネルヴァさんをエスコートする。
3人の少女たちにワケを話し、間近に迫ったヴィクトリアに進路を取った。

「アレが、ヴィクトリアのコロニー群か」
 目前に見えて来た、巨大なドーナツ状のカタチをしたコロニーの群れ。
想像していた円筒形のコロニーとは、様相が違う。

「はい。人類が宇宙に進出するにあたって、最初に建設された基地のあった場所です。火星への入植もまだの時代、ヴィクトリアは宇宙船や物資を集めるための、重要な拠点となっていたのです」
 オリティアが、説明をくれる。

「その話しぶりだと、今は寂びれてるみたいな感じなんだが?」
「実際、その通りなのです」
 ミネルヴァさんが、言った。

「かつては文明の中心であった地球圏も、今は火星に主役の座を奪われて久しいのです。地球と宇宙を結ぶ重要拠点であったこのコロニーも、今や人類の拠点とは言えなくなってしまいました」

「栄枯盛衰……と言ってしまえば簡単ですが、人類がまだ地球にしがみ付いていた時代でも、そうでしたからね。シュメール、アッシリア、ローマ帝国、モンゴル帝国、スペイン、イギリス、アメリカ……」

「ええ。覇権を握った国も、その繁栄が永遠に続くコトはないのです」
 ミネルヴァさんは、ゆっくりと瞳を閉じた。

「ボクがただ眠っていた1000年の間に、人類の歴史は動き続けていたんだな……」
 テル・セー・ウスは、古びた真ちゅう色の外壁をした、ドーナツ型コロニーの1つに入港する。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第08章・第03話

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悲劇のヒロインたち

 シンフォニックでアコースティックな曲が流れると共に、天井絵の天使たちが平面から抜け出して、宙を舞い始める。

「ス、スゲエ、裸眼AR(拡張現実)ってヤツか!?」
「ホントに天使が、空を舞っているとしか思えないわ!」
 凝った演出に、会場が騒めいた。

 ゴシックなビロードの絨毯に跪(ひざまづ)く、エリア。
天井のパネルはいつの間にか、ステンドグラスの模様になっている。
恐らくだが本物の日の光を取り込んで、エリアの周囲に真っ白な光を落としていた。

「アイドルライブとは思えない、教会みたいな演出だよな?」
「でもオレ、わかったぜ。これ、ソロアルバムのあの曲だろ」
 どうやら周りのファンたちは、どの曲が始まるのか知っているらしい。

 天使が空を舞うライブ会場に、神秘的な歌声が響き渡った。

「これが……エリアの声なのか?」
 高音ソプラノの透き通った声は、本当に天使が歌っているのかと勘違いしてしまうくらい美しい。

「でも、なんだかエリアのイメージとは、どことなく違うな」
「先生ったら、けっこう失礼なコト言うわね」
 エリアのソロが響く会場は、会話が可能になっていた。

「イヤ、そう言うワケじゃなくてさ。彼女の教会に行ったコトがあるんだケド、教会がプロテスタントってのもあって、もっと純朴なイメージと言うか?」

「そう……先生、エリアの教会に行ったんだ……」
 右隣に座ったユミアの顔が、急に曇る。

「あ、ああ」
 ボクは、エリアの教会に行ったときの経緯を思い出した。
小高い丘にそびえる教会の墓地には、ユミアの実の兄が眠っている。

「もちろん、ボクが連れて行ったのさ。ヤツの、墓参りも兼ねてね」
 ボクの左隣に座った久慈樹社長が、子供っぽい笑顔で答えた。

「ずいぶんと、勝手なコトをしてくれるわね」
「オイオイ。確かにヤツは、キミの実の兄でもあるが、ボクの親友でもあるんだ。墓参りくらいするのは、当然だろう?」

「アナタが、親友ですって。最高に甘い評価をしてあげて、悪友よ。兄が築いたユークリッドを、自分の意のままに動かせて、さぞや楽しいでしょうね」

「悲劇のヒロインを、まだ続けるつもりかな。でも、悲劇のヒロインは、キミだけじゃないさ」
 ステージに目をやる、久慈樹社長。
そこには美しくも儚げな美声で歌う、エリアの姿があった。

「我柔 絵梨唖(がにゅう えりあ)。彼女もさ」
 すると、荘厳な教会のセットが崩れ、足元から草木が伸び花が咲き乱れる。

「曲調が、変った。これは何とも、鮮やかな曲だな」
 純白のローブを着ていたエリアが、ワルツのように回転するステップを踏み、踊り始めた。

「オイ、上見ろよ」
「うわ、ライアが宙を舞ってる!」
「テミルっちも、空飛んでるぞ!」

 緑色の妖精の姿をしたライア、メリー、テミルが、ドームの天井から吊られたワイヤーアクションで、優雅に宙を飛び回る。

「解ってるわ……そんなコト」
 ユミアが、ポツリと何かを言った。
けれども既に、大音量が邪魔して聞こえない。

 ステージではエリアが、舞い降りてきたライアたちと共に歌っていた。

 彼女も、母親を自殺というカタチで失っている。
教育民営化法案に対する、抗議のための行動だった。

「悲劇のヒロインは、ユミアだけじゃないと言う社長の言葉は、正しい……な」

 エリアの曲が終わると、ライアのソロ曲のステージとなり、ステージが法廷のセットに替わる。
天井のクリアパネルに浮かんだ裁判官たちに対し、弁護士として立ち向かうライア。

「ライアも、正義の心を教えてくれた父親が、汚職の嫌疑をかけられた挙句、失踪してしまったんだ……」
 刑事だった父親に対するライアの感情は、かなり複雑だった。

「ボクの生徒である少女たちは全員、悲劇のヒロインでもあるんだ」
 耳を劈(つんざ)く歓声の中、ボクはそんな想いでステージを眺めた。

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キング・オブ・サッカー・第7章・EP002

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ポスティングの理由(ワケ)

「よォし、まずはこの辺から始めようぜ!」
 セットしたポスティングのチラシを持った、黒浪さんが言った。

 ボクも、コクリと頷く。
ポスティングなんてやったコト無いケド、大丈夫かなァ。

「ま、簡単じゃね。こうやって、郵便受けにチラシを放り込むだけだろ?」
 黒浪さんは、さっそく一戸建て家屋のポストにチラシを投げ入れる。

「一馬も、やってみろよ」
 そう言われて、恐る恐るボクも違う家のポストにチラシを入れた。

 確かに、簡単だ。
でも、ボクの容れたチラシ以前にも、たくさんチラシが入ってるな。

「なあ。こっちのポスト、ギュウギュウで入らないぜ」
 あ……。
ボクは、黒浪さんが無理やり押し込もうとしている郵便受けの、上を指さした。

「ン、なになに、チラシお断り……って、入れちゃダメじゃん!」
 小さなプラスチックの板に、『チラシお断り』と書かれている。

「雪峰キャプテンも、チームの宣伝用のチラシだから、お断りって書かれてる郵便受けには入れるなって、言ってたよな」
 ボクはコクリと頷く。

「しゃ~ない。ここは飛ばそう」
 ボクと黒浪さんは、それからもポスティングを続けた。

「フゥ、やっと終わったぜ。たっだいまぁ!」
「お前にしちゃあ、まあまあ時間がかかったな、クロ」
「ウッセー、ピンク頭。陸上と違って、ただ走れば良いってモンじゃないんだ」

 事務所に戻って来たボクたちは、冷蔵庫から麦茶を出して飲む。

「どうだ、2人とも。問題は無かったか?」
「それがさあ、郵便受けにチラシ入れてたら、いきなり中から爺さんが怒鳴って来やがって」
「それで、どうなった?」

「慌てて逃げて来たよ、大変だったぜ」
「ふむう、心証を悪くされてなければ良いが」
 ボクも同じコトが、2回あった。

「だけどよ、雪峰。しゃ~ないんじゃ無ェか。ポスティングなんて、配られる側からすりゃあ迷惑この上ないからな」
「だよな、ポストがチラシで溢れ返ってんだ。ありゃあ、怒るのもムリ無いって」

 紅華さんの反論に、黒浪さんも同調する。

「……とは言えだ。実はウチの実家も、ポスティングはしてんだ」
「なんだよ、それ。ピンク頭の実家って、なにやってんだ?」
「美容院だよ。街のしがない……な」

 そう言えば紅華さんの家は、お母さんが1人で美容院を切り盛りしてたんだ。

「だけどさ。なんでみんな、ポスティングなんかやるんだ?」
 郵便受けに入っていたチラシの量を見るに、多くの業者がポスティングを行っているんだと解る。

「客が、来ねェからだよ」
「ハァ。そんなコトは……」
「あるんだよ。中小なんて、ポスティングしたときくらいしか、新規の客は来ねェ」

「そうですね。大企業であれば、宣伝に掛けられる資金も潤沢でしょうし、宣伝媒体も多岐に渡ります。チラシにしても大量発注するコトで、1枚辺りのコストを下げられて、中小企業より優位に立てるのですよ。いわゆる、スケールメリットと言うヤツですね」

「し、柴芭。お前の話、難し過ぎんだよ。もう少しこう、解り易くだなぁ」
「これでも解り易く、話したつもりなんですがね」
「な、なんかオレさまのコト、バカにしてない?」

「お前の頭で解るようにって言うなら、しがない街の美容院に行こうと思う機会なんて、チラシが入ったときくらいってコトだ」

「今回、ウチと同時にポスティングしたチラシだが、写真屋と弁当屋、喫茶店のモノでな。どれにも、割引券が付ている」
「割引券かぁ。だったら、オレさま行くかもな?」

「中小ってのは、そうやって客を呼び込むんだ。オレも昔は、ポスティングに駆り出されたモンだぜ」
「ピンク頭も、ポスティングしたコトあんの?」
「自慢じゃないが、お前よりかは早く配れるぜ」

「な、なんだとォ。オレさまだって慣れさえすれば、お前なんかに負けないからな!」
 それからしばらくの間、ボクと黒浪さんはポスティング要員となる。

 3部リーグより下の、地方リーグにさえ入れるかどうかのクラブとしては、当然の光景なのだろう。

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ある意味勇者の魔王征伐~第11章・67話

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僅かなふれあい

 天空都市から溢れ出す、白い霧(ミスト)。

 その正体はと言えば、大魔王ダグ・ア・ウォンの生み出した、水の龍(ウォータードラゴン)や、雲の龍(クラウドドラゴン)の身体の一部であり、舞人によって切り裂かれた欠片でもあった。

『ククク、面白いコトを考えるモノよ。我が配下の龍を切り裂いて霧を生み出し、亡霊どもを紛れ込ませるとはな』
 なおも余裕の、大魔王。

『なれど亡霊如きに、大魔王は縛れぬ。無駄であったな!』
 ダグ・ア・ウォンが、丸太のような4本の腕で、自身に纏わり付いた白いモヤを振り解く。
同時に自身を中心とした突風が巻き起こり、霧を四散させた。

「ギャアアアア!」
 日の光を浴び、消滅する亡霊たち。

『我が主たちの、悲鳴が……』
 天を仰ぎ見る、黄金の戦士ラ・ラーン。

「や、止めて……民たちが、消えてしまう……」
『クシィ―様。アレはもう、この世界に留まって居てはならぬ、魂なのです』
 空へと消える亡霊に、駆け寄ろうとする少女を抱きとめる、黄金の戦士。

「パレ……アナ」
 因幡 舞人は、クシィ―ことパレアナの目の前に居た。

『こ、この者、いつの間に……』
『中々に、面白い小僧じゃ』
 トゥーラ・ンとマ・ニアも、舞人の行動に驚く。

「ムゥ、霧は亡霊どもの目くらましであると共に、我との対峙を回避する為でもあったか!』
 舞人の意を知り、悔しさを滲ませる大魔王。

「舞……人……」
 栗色の髪の少女が、可憐な手を伸ばす。

「パレアナ!」
 獣だった舞人の顔が、僅かに元の表情を取り戻した。

「舞人ォ!」
「パレアナァ!」
 少しずつ、自我を取り戻した2人の指先が、僅かに触れ合う。

 幼馴染みの孤児として、小さな街の教会に育った2人が、やっとの想いで出会った瞬間……。

『軽々しく、我が主に触れるな、小僧』
 2人の間を、黄金の戦士が遮った。
ラ・ラーンは光の球を右腕に発生させ、舞人の腹にブチ込む。

「ガハッ……アアア!!?」
 光弾を受け、天空都市の外へと吹き飛ばされる舞人。

「舞人ォーーー!」
 少年の耳から遠ざかる、幼馴染みの少女の声。

「チッ、あの黄金の鎧ヤロウ、とんでも無ェ能力を持ってやがるぜ!」
「ですが兄上。撤退の、好機かと……」
「お、おう。そうだったな、ギスコーネ」

 2人の王子は、1番近い街の縁から、大海原へと飛び込んだ。
王子たちと対峙していた3体の魔王が、後を追おうとしたが、サタナトスによって止められる。

「まあ、見逃してやろう。そんなコトを言える立場じゃ、無いのかもだケドね」
 戦いに後れを取ったサタナトスが、下唇を噛みながら言った。

「パレ……ア……」
 大きく空へと放り出され、意識を失う舞人。
落下する少年の髪が、元の蒼へと戻って行く。

「まったく……しょうがないご主人サマじゃの」
 コウモリの翼を持った少女が、大洋へと落下する少年を抱きとめた。

「妾を空へと放りだして置いて、自分は他の女にうつつを抜かすとは、困ったものじゃ……」
 蒼に戻った少年の髪を、優しく撫でるルーシェリア。

「その相手がパレアナであれば、多少は許せるがの」
 眼下に広がる大海原に、2人の王子の姿を見つけるルーシェリア。

「なんとか、無事に逃げられたの」
「ああ、そうだな。だが、これで終わったワケじゃ無ェ」
 海面に立ったバルガ王子が見上げる空には、天空都市が揺ら揺らと漂っている。

「オヤジやアクトたちを元の姿に戻し、サタナトスのヤロウをぶっ潰す。ギスコーネ、テメーにも協力して貰うぜ」
「ボクは、兄上や父上を裏切った身……よろしいので?」

「今回の一件は、お前が原因でもある。きっちり、自分の尻拭いくらいしろ」
「……はい、兄上!」
 兄に言われ、覚悟を決めるギスコーネ。

「オ~イ、みんなァ。良かったァ、ダーリンも無事だったんだ」
 波間に、スプラ・トゥリーが顔を出す。

「シドンたちは、無事か?」
「うん、とっくにカル・タギアに送り届けたよ」

「濡れるのは好かんが、カル・タギアに戻る必要がありそうじゃな」
「だったら、ダーリンは預かるからね。おっ先ィ!」
 ルーシェリアから舞人を奪い取ると、海中に潜って行くスプラ。

「なッ、待つのじゃ、ドロボウイカめェ!」
 漆黒の髪の少女も、空から大海原へと飛び込んだ。

「緊張感の無い、人たちですね」
「ああ、だが暗く落ち込んでるよりはマシだ。ティルスたちに、顔向けできないからな」

「そう……ですね」
 ギスコーネは、兄のお付きの少女の形見となってしまった剣を見つめる。

「行きましょう、兄上。ボクには、カル・タギアでやらねけれな行けないコトが、たくさんある」
「覚悟は、決まったみてェだな。よし、行くか」

「ええ、兄上」
 2人の王子は、まるで鮠(はや)のように宙を舞うと、波間から姿を消した。

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