ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第六章・EP039

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ウチのクラスの委員長

「一馬、お前が立ちはだかるか……」
 紫色のユニホームに身を包んだ、ボクのクラスのクラス委員長が言った。

 千葉委員長は、誰とも喋らないボクと違ってクラスの人気者で、人望もとうぜん厚い。
岡田先パイたちに酷い目に遭わされた、千葉 沙鳴ちゃんのお兄さんで、今日の試合もなにか決意みたいなのを感じる。


「ここは、通させてもらう!」
 強引にボクを抜きにかかる、千葉 蹴策委員長。
だけど、ソレとコレとは話が別だ。

 抜かせるワケには、行かない!
今、デッドエンド・ボーイズは、ボクが監督の指示を伝えられなかったせいで、雪峰キャプテンがボランチから外れちゃってる。

「フッ、抜かせる気は無いみたいだな。アイツが、その気になるのも判るぜ」
 ……ヘ、アイツって??
委員長の言葉に、心の隙が生まれた。

 あッ!?
緩急の差のみで、ボクを抜き去る千葉委員長。

「まだで、あります。ボランチは、もう1枚いるであります!」
 ボクを抜いたコトで、委員長のボールが少し前に離れる。
そこを、杜都さんが狙っていた。

「ロックオンであります!」
 得意のタックルで、ボールを奪取しようと試みる。

「クッ……ここはあえて……」
 委員長は、その場でストップした。
委員長の背中を追っていたボクは、危うくぶつかりそうになる。

「し、しまったであります!?」
 委員長とボールを競り合うつもりでいた杜都さんのタックルが、ボールを弾き飛ばしてしまう。

「よし、桃井にボールが出たぞ!」
 こぼれ球を拾ったのは、桃井さんだった。

「走れ、千葉。ボクが必ず、お前にボールを入れる!」
 桃井さんは、ボクと杜都さんのボランチが居る中央から、雪峰さんの居る左サイドへと流れる。

「オレが本職で無いセンターバックに入ったと知って、そこを突いて来たな!」
 雪峰さんが、警戒しならが桃井さんとの間合いを詰めた。

「だが通させるワケには、行かない!」
「フフ、元々そんなつもりは無いさ」
 桃井さんは、反転してボールを下げる。

「ウム、ナイス判断だ、桃井」
 そこに、リベロの斎藤 夜駆朗さんが、オーバーラップして走り込んでいた。

「し、しまった!?」
 自分が、釣り出されたコトに気付く雪峰さん。
斎藤さんは、右のセンターバックである雪峰さんの居たスペースに、ボールを入れる。

「ナイスパスだ、斎藤。後でジュースでも、おごるぜ」
 千葉委員長が、ボールをトラップした。

「気を付けろ、千葉。岡田先パイが、来てる!」
 桃井さんが、ナゼか味方であるハズの、岡田先パイを警戒する。

「ああ、わかってるさ……」
 岡田先パイの脚が、千葉委員長のボールをよこせとばかりに、刈り取ろうとする。

「だが、ゴールを決めるのはオレだ!」
 一瞬だけ早く、千葉委員長がシュートを放った。

「させるかァ!」
 海馬コーチが、重そうなお腹を揺らしながら、必死にセービングをする。
右の脇を締めて、自分の右側を抜かれまいとする防御態勢だ。

「あ~あ、逆取られたね」
「近い方(ニア)を狙ってくるのが普通ですが、あえて遠い方(ファー)を狙って来ましたね」
 シュートは、海馬コーチの左手側を悠々と抜け、ゴール左隅に決まっていた。

「岡田先パイ、これで並びましたよ」
 背中の男に言い放つ、千葉委員長。

「ケッ、ナマイキなガキだぜ。だが、並んだだけだ……覚えとけ」
 岡田先パイは、自陣に引き上げた行った。

「スマンな、オレが釣り出されたばかりに……」
「じ、自分も、ボランチとしての対処が甘かったであります」
 雪峰さんと杜都さんが謝ってるケド、本当に悪いのはボクなんだ。

「取られたモノは、悔やんでも仕方ありませんよ。気持ちを切り替えましょう」
「そ~そ、エセマジシャンの言う通りだ」
「誰がエセマジシャンですか……まったく」

 黒浪さんと、柴芭さんのやり取りに、少し空気が和む。

「またあのキーパーから、2点以上取らなきゃ行けなくなっちまったな」
「ええ、ですが相手の弱点は明白です。左サイドから、積極的に仕掛けましょう」
 柴芭さんも、曖経の弱点を把握しているみたいだった。

 試合再開のホイッスルが、鳴り響く。
今度は柴芭さんが、中央から仕掛けた。

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ある意味勇者の魔王征伐~第11章・50話

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浮上

「な、なんじゃ、宮殿が揺れておるぞ!?」
 漆黒の髪の少女が叫んだ。

「まさかコイツらを倒したせいで、またなんかの仕掛けが作動しちまったんじゃ無ェだろうな?」
 バルガ王子の周囲には、黄金剣クリュー・サオルによって黄金と化した、怪鳥たちの残骸(スクラップ)が散乱している。

「単なる地震って可能性もあるケド、ぜんぜん揺れが収まんないよ、ダーリン!」
「ここって、深い海の底なんだよね。地震なんて起きるのかな?」
 蒼い髪の少年は、2人の少女を護るように身体で覆い被さりながら、疑問を漏らした。

「起きる。むしろ、このリヴァイアス海溝は、多くの地震の発生源でもあるのだ」
「そう言や、そうだったな、シドン。だが、やけに長い地震だぜ。早く脱出して、アラドスを治療してやりてェんだが……」

 けれども王子の願い虚しく、一向に揺れは収まらない。
それどころか、徐々に揺れの大きさが増幅されて行った。

「ウェ、なんだかボク、気分悪くなってきた」
「だいじょうぶか、スプラ。でもなんだかこの感じ、エレベーターの乗ってるときみたいだ。エレベーターが、上昇している感覚と同じな気がする」

「の、のォ、ご主人サマよ!」
「ど、どうしたの、ルーシェリア。いきなり大声を出して?」

「『エレベーター』とは、なんじゃ?」
 舞人が抱えた少女の1人が、訝しげな顔をして問いかける。

「へ?」
「ボクも聞いたコト無いよ、ダーリン。ねェ、シドンは知ってる?」
「残念ながら、わたしの知り得た知識の中にも、該当する言葉は無いな」

「だ、だからエレベーターってのは、ホラ……エレベーター……アレ、なんだろう?」
 急に記憶の泉が、枯れ果てる感覚に襲われる舞人。

「もう、ダーリンったらこんなときに、ボケてる場合じゃないよ!」
「ゴ、ゴメン、スプラ」

「まあ落ち着け、イカの小娘よ。ご主人サマはどうやら、自分が知らない記憶を持っているようじゃ」
「自分が知らない記憶ィ。なに言ってるのか、サッパリなんですケドォ?」

「武器庫のときもそうであったろう。ご主人さまは明らかにこの宮殿に使われている文明の技術を、知っておるのじゃ」
「言われてみれば、そうだね。ダーリン、なんで知ってんの?」

「ボクに聞かれても、自分でもよく解らないって言うか……」
 舞人は、自分でも違和感を感じる。

「だが、上昇していると言うのは、その通りかも知れん」
「どう言うコトだ、シドン?」

「恐らく、簡単な話です。揺れも小さくなって来ましたし、急ぎましょう」
「そうだぜ、王子。オレたちが動けるってコトは、追って来ている巨人どもも動けるってことだ」
 若き海洋生物学者の提案に、ベリュトスも賛同する。

「そうだな……一旦宮殿に戻って、外の状況を確認するぜ」
 一行は、大魔王が穿った洞窟から、間近に見えていた宮殿への裂け目に向け急いだ。

 大魔王が目覚める前の巨大タマゴが吊るされてた大広間を駆け抜け、魔物が徘徊する回廊を突っ切って、最初に入った玄関まで辿り着く。

「深海魚たち、まだやられずに生きてるかな?」
「外にまで敵がいたら、逃げちゃってるかも。泳いで帰れるかなァ」
 舞人とスプラは、玄関の扉を開けようとした。

「待てよ、忘れちまったのか。宮殿の外は深海だぜ。また、例の深海の魔法ってヤツを……」
「王子、わたしの予測では、その必要は無いかと思われます」

  シドンは、大きな両開きの玄関扉を開け放つ。

「な、なんだ、こりゃあ。一体、どうなってやがる!?」
「オ、オレたち、確かに海溝の底の深海に居ましたよね!?」
 アラドスを抱えたバルガ王子とベリュトスが、大きく目を見開いた。

「ルーシェリア、どう言うコト……なんでボクたち、地上に出てるの?」
 舞人たちの目に映ったのは、海から上ったアト・ラティアの街並みと、蒼穹の空だった。

「イヤ、ご主人さまよ。ここは地上では無い。上空じゃ」
「な、なんだって!?」

 舞人が辺りを見渡すと、海藻に覆われた街並みが日の光を浴びて輝いている。
そこら中に出来た水溜まりでは、深海魚が内臓を破裂させていた。

「アト・ラティアの街が……街ごと浮上したってコト!?」
 蒼き髪の勇者は、現実を現実と認識できないでいた。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第24話

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不動産屋の娘

 簡易裁判所は、実のところボクも訪れるのは始めてだった。
その中で出会った、教え子の少女。

「ライア、撮影は終わったのかな?」
 ボクは、古風な弁護士の服を着た少女に話しかける。
どうやら今回の撮影で着た、衣装のままらしかった。

「ど、どうしたんですか、先生。その頬っぺた」
「ああ、色々とあってな。タリアに、良いパンチをお見舞いされてしまったよ」

「あのコったら、また……先生がその気であれば、傷害罪になるところです」
「当然ながら、そんな気はないさ。こちらの落ち度も、大きかったからね」
 ボクは会話の流れで、マジメ過ぎる少女の行動を抑制する。

「ところで、撮影はもう……」
「はい、今日の撮影は終わってます。他のメンバーも来てますケド、今回は裁判所でわたしがメインの撮影でした」

「……と言うコトは、明日以降も撮影があるんだな?」
「明日は、エリアの実家の教会での撮影だと聞きました。ところでそちらの方は、ご友人ですか?」

「あ、ああ。大学の頃からの……」
「悪友だよ。キミが、プレジデントカルテットの、新兎 礼唖(あらと らいあ)ちゃんだね?」
 悪友は、ボクの会話を強奪する。

「はい。そうですが、わたしになにか用件があるのでしょうか」
「ある、大アリなんだよ。実はオレ、ユークリッドからキミたちのソロ曲の作曲依頼を受けてさ」

「お前たちの誰とも面識がない上に、新人アイドルだから細かな情報も無い。だから直接会って、曲のイメージを掴みたいってコトなんだ」
 今度はボクが、悪友から会話を奪ってやった。

「なる程、了解しました。そう言うコトであれば、他のメンバーも呼んだほうが良いですよね」
「ああ、頼むよ、ライア」

「でしたら、出てすぐ横にある喫茶店でお待ちください。ユークリッドと言えど裁判所を貸し切れたのは、午前中だけなんです」

「半日だけでも、裁判所を貸切るなんて十分に凄いけどな」
「了解した。じゃあ、先に喫茶店に行っているよ」
 ボクと友人は、公共の場に戻った裁判所を後にした。

「お、ここがライアちゃんの言ってた、喫茶店か。ずいぶんと趣(おもむ)きのある、店だな」
「確かに、チェーン展開されてる店とは違った、こだわりを感じるな」
 カランコロンとドアベルが鳴り響き、中へと入る。

 挽き立てのコーヒーの香り漂う店内は、オレンジ色の照明と、赤いビロードの背もたれ椅子があって、セレブな雰囲気の人たちが優雅なひと時を愉しんでいた。

「お、あの奥まった席にしようぜ。カルテットってんなら、アレくらいの広さが無いとな」
「ウム、異論はない」

 ボクは友人の意見に賛同し、喫茶店の一番奥の席に座る。
2人ともアイスコーヒーを注文し、しばらく待っていると、4人の少女がドアを開け入って来た。

「お前たち、撮影でお疲れのところ悪いな」
 天空教室で見慣れた制服姿とは異なり、フォーマルなデザインのアイドル衣装を着た教え子たち。
ボクは少し緊張気味に、会話を始めた。

「とりあえず、好きなモン頼んでよ。ここ、オレがおごるからさ」
 軽いノリで、初対面でも躊躇するコトも無く話しかける友人。

「へえ、この方が先生のご友人さんっスか?」
「そうだよ、テミル。大学時代の、腐れ縁ってヤツだ」
 4人(カルテット)の中で、最初に会話に応じたのは、やはり彼女だった。

「ちなみにご友人さん、現在はどんな住宅にお住まいっスか?」
「え、ああ。実家だケド」

「一人暮らしする予定は無いっスか。良い物件、紹介するっスよ」
「今の会社の仕事ですら、手一杯だからな。家事までしてる、余裕がないって言うか……」
 家事は親任せだとは、言い辛いらしい。

「な、なあ。このコは?」
「天棲 照観屡(あます てみる)、プニプニ不動産の看板娘ってところかな」

「んじゃ、お言葉に甘えても、構わなそうっスね。エビとサーモンの海鮮カルボナーラと、特大ハンバーグのロコモコ丼、飲み物はメロンソーダが良いっスね。あと、デザートにザッハトルテってヤツが美味しそうっス」

 客にならないと判った途端、遠慮もせず高いメニューばかりを注文するテミル。
流石は、不動産屋の娘と言ったところだろうか。

「テ、テミルちゃん、そんなに注文して食べきれるかな?」
「大丈夫っすよ。撮影で体力使った後っスからね」
 琥珀色の髪を三つ編みお下げにした少女は、悪びれるコトも無くほほ笑んだ。

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一千年間引き篭もり男・第06章・63話

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出産

「アマゾネスの部隊は、どうしている。ペンテシレイアさんたちを、出せないのか?」
 Q・vavaの巨大な鎌をかわしながら、ボクはヴェルダンディに問いかけた。

『ペンテシレイア及び、ヒュッポリテーの艦隊は、火星の別の宙域を哨戒しておりました。現在急ぎ向かわせておりますが、到着にはあと30分ホドがかかります』

「ロボットアニメだって言うなら、距離なんて無視して現れてくれてもいいだろうに!」
 ゼーレシオンの周りに群がるQ・vicに、苛立ちをぶつけ蹴散らす。

「コトここに至っては、クーリアを討つ他にあるまい」
 ゼーレシオンの隣に飛来した、黄金のサブスタンサーのパイロットが言った。

「な、なにを……アポロさん、クーリアはアナタの許嫁なんですよッ!」
「だからこそだ。だからこそ、わたしが彼女を討たねばならんのだ!」
 アー・ポリュオンは、クーリアの乗るQ・vavaに向って突進する。

「ウフフ……アナタも来てくれたのね、アポロ。とても、嬉しいわ」
 異形のサブスタンサーは、身体の四方に配された花びら状のマントから、レーザーを一斉照射して許嫁を出迎えた。

「クッ、迂闊に接近するコトも、儘(まま)ならないとはな……」
 獅子のタテガミと6枚の翼を持った黄金のサブスタンサーは、再び距離を取り攻撃を避ける。
けれども、カプリコーン区画の街や人々は、成す術なく灰塵と化し燃え散った。

「この街はもう、火の海だわ。舞台を、移しましょう」
 ゆっくりと浮遊し始める、Q・vava。
ボクも、アポロさんと追撃するが、見降ろした街は真っ赤に染まっていた。

 ~その頃~

 アポロさんや、メリクリウスさんからの追撃を逃れたマーズのマー・ウォルス。
愛する女を抱えて、中東風のエキゾチックな装飾のされた巨大空母に舞い降りた。

「待っていろ、ナキア。今、お前の艦の医療室に運んでやるからな!」
 真っ赤な髪の男は、赤いサブスタンサーから降りると、風船のように大きくなった腹の女を抱える。

「重力システム解除だ。医療用のアーキテクターと、出産用のプログラムを準備しろ」
 かつて火星艦隊の司令官だった男は、的確な指示を首に巻いたコミュニケーションリングによって、巨大空母ナキア・ザクトゥに伝える。

「あああぁぁ痛いィ、生まれちゃうゥウウッ!?」
 脂汗にまみれた顔の、ナキア・アクトゥ。

「クソ、どうしてこんなに腹が、大きく膨らんでやがる。異常にもホドがあるじゃねえか!」
 臨月にはほど遠かったナキアの腹は、はち切れんばかりに膨らみ、破水も始まってしまっていた。
マーズは、重力の枷から外れた女を、医療室まで運んだ。

「マ、マーズさまああぁぁッ!!」
「ナキア、大丈夫だ。しっかりしろ!」
 マーズは必死に叫ぶが、分娩台に寝かされたナキアは、白目を剥いて気を失ってしまう。

 カーネーション色のツインテールは、解(ホド)けて床に散らばり、手足がピクピクと痙攣していた。
急激に大きくなったせいか、腹はマスクメロンのようにひび割れている。

「これは、どう言うコトだ。あの女、ナキアになにをしやがった!」
 その間にも褐色の腹は、さらなる膨張を続け巨大化する。

『ククク、その女の願いを、叶えてやったまでよ』
「な……ッ!?」
 マーズが振り向くと、漆黒のローブを纏った女が立っている。

「お前は……クーリアに、憑り付いたんじゃなかったのか!?」
『人を、幽霊と思うてはおらぬか。アレも、我が魂の一部に過ぎぬ』

「ワケの解ら無ェコトを……ナキアを、元に戻せ!」
『それは出来ぬな。その女は、直に死ぬ』

「ふざけるな、ナキアはオレの愛した女だ。こんなところで、死なせてたまるか!」
『言ったであろう。その女の願いを、叶えたまでと』
「ナキアの願い……なんのコトだ?」

『その女は、一刻も早く我が子に会いたいと言った。それを、叶えてやったのだ』
「ま、まさか……」

「ぎゃあああぁぁぁあぁぁーーーーーーーーーーーッ!!?」
 マーズの背後で、獣のような悲鳴がする。

「ナ、ナキアッ!?」
 軍神は振り返るが、そこには破裂した腹の女が横たわっていた。
苦痛に歪んだ表情のまま、ピクリとも動かなくなったナキア・ザクトゥ。

『喜ぶが良い。お前の子だ』
 マーズの耳元で、漆黒のローブの女が囁く。

「オ、オレの……子?」
 軍神は、血まみれの分娩台に近寄った。
ザクロのように裂けた女の腹からは、腸やら臓物やらが零れ出ている。

「……ち……ちち……うえ……」
「マ……マーズ……サマ……」

 ナキアの腹の上で、母親の血に染まった10歳くらいの少年が2人、ゆっくりと立ち上がった。

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キング・オブ・サッカー・第六章・EP038

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マリーシア(ズル賢さ)

 ど、どうしたんだ!?
伊庭さんの蹴ったボール、野球場の方に跳んで行っちゃったぞ。

 グランドを囲むように配置されていた、ボクと同じ1年生であろうボールボーイの数人が、慌ててボールを探しに行く。

「伊庭、お前のパントキックは、どこへ飛んでいくか解らん。キャッチしたら、オレに渡せ」
 リベロの斎藤さんが、ノッポなキーパーに指示した。

「ウッ……ウス……」
 ウスが、普段より不服そうだ。

「ラッキーだぜ、マイボール、マイボール!」
 ボールボーイからボールをを受け取った紅華さんが、棚香さんの背後にボールを出す。
そこには、俊足の黒浪さんが走り始めていた。

「オイ、オフサイド……あ!?」
「アホか。スローインに、オフサイドがあるかよ」
「ク、クソ、覚えとけよ、ピンク頭!」

 棚香さんは、黒浪さんが普段呼んでいるあだ名で、紅華さんを罵った後、必死に戻る。
けれども足の遅い棚香さんが、『黒狼』に追い付けるハズも無かった。

「お前らは、千鳥さんのトイレを覗いた罪深き連中だ。オレさまのシュートで、悔い改めな!」
 ペナルティエリアまで一気に進入し、渾身のシュートを放つ黒浪さん。

「ムンッ!」
 けれども、黒蜘蛛(ブラックシャドウ)の長い腕が伸び、ボールをキャッチする。

「うわぁ、良いシュートだと思ったのに、アレを止めちゃうのかよ!?」
 頭を抱える、黒狼。

「よし、伊庭。こっちだ」
 斎藤 夜駆朗が、右に開いてボールを呼び込もうとしていた。

「戻って下さい、カウンターが来ます!」
 中盤から居なくなった雪峰さんの替わりに、柴芭さんが指示を飛ばす。

 でも、カウンターなんて、されないケドね……。
ボクは、伊庭さんから斎藤さんへと渡されるスローインを、そのままゴールへと押し込んだ。

 ボクの得点によって、スコアボードに5-5の数字が並ぶ。

「フフ、一馬のヤツ、やりますね」
 ベンチで車椅子に乗って試合を見ていた倉崎さんが、セルディオス監督に言った。

「倉崎は、御剣に甘いね。でも、確かに相手キーパー、守備に関しちゃハンパないケド、スローイングもパントキックもゼンゼンね。キーパーは、一番最初の攻撃の起点ってコト、解ってないね」

「一馬は、そこを狙っていた。紅華もスローイングで黒浪を裏に走らせましたケド、一馬も少しは相手の弱点を突けたんじゃないですかね?」

「そ、それって、卑怯じゃないですか!」
 車椅子を押していた、剣道の面を被った少女が言った。

「卑怯、その通りね、お嬢さん(セニョリータ)。サッカーじゃマリーシア(ズル賢さ)、重要ね。プロになればなるホド、良い人居なくなるよ」

「キミは、剣道をやっているのかな?」
「え、ええ、そうです」
 車椅子の男からの質問に、慌てて答える沙鳴ちゃん。

「例えば著名な剣士でも、宮本 武蔵は、巌流島にあえて遅れて来ただろ。新選組は、多数で少数を襲撃する戦法を得意とした。本気になればなるホド、正々堂々だけじゃ通用しなくなるものさ」

「そ、そんなモノでしょうか……」
 自分の中の甘さを、兄にも指摘された少女剣士。
面の中の可愛らしい瞳が、再びピッチに向けられる。

 センターサークルには、彼女の足を負傷させ、恐怖と恥辱を与えた男が立っていた。

「まったく、使えねぇキーパーだな。どうせ勝負に負けたら、辞めちまうから関係ねェか」
 岡田 亥蔵が、軽くボールを横に出す。

「負けませんよ、オレたちは。この試合も勝って、アンタら3年との勝負にも勝つ!」
 ボールを受け取った千葉委員長が、自らドリブルを開始した。

「ケッ、また直ぐに取られるのがオチだろうが……」
 狂気のストライカーは、構わず前線に張り付く。

「千葉、ボクにボールを預けろ。ゴール前まで、余計な体力を使うコトはない」
「イヤ、オレが行く。お前こそこの試合、負担が大き過ぎる。少し、休めておけ」
 委員長は桃井さんを残して、デッドエンド・ボーイズの陣地に斬れ込んで来た。

 千葉委員長……ここは、ボクが止める!
ボクは、その進路に立ち塞がった。

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ある意味勇者の魔王征伐~第11章・49話

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アト・ラティアの本

「1つ、質問があります」
 パレアナの口が、小声でそう呟く。

「なんだい、クシィ―。まさかキミから質問をして来るなんて、思っても見なかったよ」
 サタナトスのみならず、虚城に集いし大魔王とその7人の部下たちも、同じ考えだった。

「アナタは、1万年の昔にアト・ラティアと共に死んだ、わたしの魂を呼び起こしました。サタナトス、アナタは選ばれた王なのです」
「キミを見つけたコトに関しては、単なる偶然ではあるケドね」

「偶然では、ありません」
「なんだって……おかしなコトういうね、キミは?」
 自分の意見を否定されたサタナトスは、少し向きになって反論する。

「ボクは海皇ダグ・ア・ウォンを大魔王とするために、キミの眠る宮殿を利用させて貰ったに過ぎない。その時、偶然見つけたペンダントを、ニャ・ヤーゴの教会の娘に付けた。そして偶然にも、キミが目覚めたと言うワケさ」

「それら全てが、本当に偶然だと思っているのですか?」
 3体の鎧姿の下僕に囲まれた少女は、あどけなさの残る顔で金髪の少年を見つめた。

「違うと、言うのかい。キミが目覚めたのは、偶然じゃなかった……と?」
「そうです。アナタはどうして、海溝の底の深海に眠る街や宮殿に、辿り着けたのです?」

「カル・タギアの図書館で、古代の書物を見つけてね。そこにかつて栄えた、アト・ラティアのコトが記されていたのさ」

「サタナトス様はナゼ、異国の図書館で古代の書物などを、見つけようとしたのですか?」
 今度は、紫の海龍アクト・ランディーグが伺いを立てる。

「そうだね。気まぐれと言ったら、納得するかい?」
「い、いえ、少々不自然に感じます。アト・ラティアなど、現在ではカル・タギアでも伝説上の存在と思われておりました。それをどうして……」

「調べる気になったのか……しかも、部外者であるこのボクが?」
 少年は、苦笑いを浮かべた。

「ウ~ン、言われてみると不自然っすね?」
「確かにカル・タギアには、世界有数の蔵書を誇る図書館があるっしょ」
「だども、そんな中からなんで、アト・ラティアの本なんだべ?」

「まさか、キミたちにまで不信に思わるとはね。流石に、説明しなきゃダメか」
 少年は、気怠そうに玉座に身を委ねた。

「ボクは妹と共に、孤児として人間の村の教会で育ったのさ。その教会には、古びた本棚があってね。シスターの趣味なのか、色々な分野の本が並べられていた。その中の1冊に、書かれていたんだ。かつて、超文明として栄華を誇った伝説の都アト・ラティアが、1夜にして海深く没した物語がね」

「そう言うコトでしたか……」
 栗色の髪の少女が、玉座の少年の前に立った。

「これで、判っただろう。ボクがアト・ラティアに興味を持ったのは、単なる偶然に過ぎないと言う……」

「いいえ、やはり偶然などではありません」
「ハア、一体なにを根拠にキミは……」

「その本を、他の者たちは読めましたか?」
「な……なにを!?」
 ハッとした顔をする、サタナトス。

「アト・ラティアの物語が書かれた本を、アナタかもしくはアナタの妹以外の人間も、読むコトが出来たのかと伺っているんです」

「よ、読めなかったさ。読めたのは、ボクとアズリーサだけ。博識ぶってたシスターにすら解読できない文字で、書かれていたからね」
 それは幼かった兄妹が、迫害を受ける一因にもなった本だった。

「恐らく、その本に書かれていた言葉は、古代アト・ラティア語でしょう」
「ふざけるな、どうしてそんな古代文字が書かれた本が、貧相な村の教会なんかにある!」

「アナタは孤児と言うコトなので、知らないとは思いますが、血縁者に特別な能力を持った人間……アト・ラティア人がいたのでしょう」

「え?」

 サタナトスは、パレアナが言った『特別な能力を持った人間』が、直ぐに頭に浮かんだ。
それは彼と妹を産み落とした、母に他ならなかった。

「あ、あの本は……母さんの形見……!?」
 金髪の少年が呟いた瞬間、地面が大きく揺さぶられる。

 辺り一面に、巨大な地震が発生していた。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第23話

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プレジデント

「あ、撮影スタッフの人たち、来たみたいですね」
 アステが言った。
玄関先でガチャガチャと、スチールケースの置かれる音が聞こえる。

「さて、曲のイメージもおおよそ掴めたし、オレらはそろそろ、おいとまするよ」
 小型のタブレットとスマホを使ってメモを取っていた友人が、席を立った。

「え、もうすぐお昼だよ。食べてかないの?」
「食堂のスタッフさんも、来てくる予定です。簡易的なメニューなら、食べられるみたいですよ」
「前に来たとき食べた、カレーパエリアが人気でメッチャ美味しいんだァ」

「へ〜そうなのか、じゃあ食べて行こうかな」
 エレトとメルリとマイヤに引き止められ、ボクの友人はあっさりと予定を変更する。

「オヒ、らいじょうぶ……らのか?」
「お前の方こそ、大丈夫かよ。医療スタッフも来たみてェだから、診てもらって来いよ」
「ああ、そうふるよ」

 玄関から入って来ていた女性の医療スタッフにワケを話し、医務室に入って患部を見せる。
しばらくすると、食堂の方から良い香りが漂って来た。

「あ、先生が帰って来た!」
「ここのカレーパエリア、本当に絶品ですわよ」
 エビや野菜が乗った黄色いライスを、口に運ぶタユカとカラノ。

「先生も一口、食べて。ハイ!」
 ボクはアルキに、口の中にスプーンを突っ込まれる。

「ふぎゃああああぁぁぁぁーーーーーーーーッ!!?」
 香辛料の針が、ボクの口の中全体に突き刺さった。

「……ギャハハ、まったくとんだ災難だったな、お前」
 前を歩く友人の背中が、派手に揺れている。

 ボクたちはテニススクールを出て、次の撮影場所へと向かっていた。

「誰のお陰で、こうなったと思ってる!」
「コトもあろうに、可愛い教え子の裸を覗いた、お前のお陰だろ?」
「ボクは休日、家でゴロつく予定でいたんだ。それを、お前がだなあ……」

「モノは考えようだぜ。変装しなくても、外を出歩ける顔になったんだ。それにしてもタリアちゃん、凄いパンチだな」
「タリアに叩きのめされた暴漢も、自業自得だと気にもしていなかったが、今は少しばかり同情するよ」

「そんなコトより、急ごうぜ。プレジデントカルテットが、裁判所での撮影を終えてる頃だからな。早くしないと、帰っちまう」
「お前ってヤツは……」

 ボクたちは地下鉄に乗って2駅分移動し、撮影場所である簡易裁判所に向かった。

「簡易裁判所って言うから、小ぢんまりとした建物かと思いきや、けっこ〜デカいな」
「地方の小さな都市ならともかく、ここは巨大都市だからな。民事にしろ刑事にしろ、裁判の数にはコト欠かないのだろう」

 どうやら友人は、ボクを真似て事前にアポを取っていたらしく、すんなりと受付を通過する。

「へ〜、裁判所ってこんな感じなんだ。受付とか、役所か車校みて〜だったよな」
「刑事ドラマやサスペンスなんかじゃ、法廷くらいしか出てこないからな」

「それにしても、裁判所を撮影現場に選ぶなんて、凄まじい発想だぜ」
「実はプレジデントカルテットの1人が、本物の弁護士を目指していてな」
「マジか。でもプレジデントって確か、大統領って意味じゃなかった?」

「確かにアメリカの国家元首である大統領が、プレジデントと呼ばれているのは有名だな。だがそれ意外の職業の最高責任者も、プレジデントと呼ばれるらしい」

「そっかぁ。弁護士であれば、弁護士事務所の経営者にでもなれば、プレジデントって呼ばれるのか?」
「まあな。でも実際には……」

「わたしはまだ、弁護士にすらなれてませんケドね」
 振り返るとそこに、ライアが立っていた。

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