ウチのクラスの委員長
「一馬、お前が立ちはだかるか……」
紫色のユニホームに身を包んだ、ボクのクラスのクラス委員長が言った。
千葉委員長は、誰とも喋らないボクと違ってクラスの人気者で、人望もとうぜん厚い。
岡田先パイたちに酷い目に遭わされた、千葉 沙鳴ちゃんのお兄さんで、今日の試合もなにか決意みたいなのを感じる。
「ここは、通させてもらう!」
強引にボクを抜きにかかる、千葉 蹴策委員長。
だけど、ソレとコレとは話が別だ。
抜かせるワケには、行かない!
今、デッドエンド・ボーイズは、ボクが監督の指示を伝えられなかったせいで、雪峰キャプテンがボランチから外れちゃってる。
「フッ、抜かせる気は無いみたいだな。アイツが、その気になるのも判るぜ」
……ヘ、アイツって??
委員長の言葉に、心の隙が生まれた。
あッ!?
緩急の差のみで、ボクを抜き去る千葉委員長。
「まだで、あります。ボランチは、もう1枚いるであります!」
ボクを抜いたコトで、委員長のボールが少し前に離れる。
そこを、杜都さんが狙っていた。
「ロックオンであります!」
得意のタックルで、ボールを奪取しようと試みる。
「クッ……ここはあえて……」
委員長は、その場でストップした。
委員長の背中を追っていたボクは、危うくぶつかりそうになる。
「し、しまったであります!?」
委員長とボールを競り合うつもりでいた杜都さんのタックルが、ボールを弾き飛ばしてしまう。
「よし、桃井にボールが出たぞ!」
こぼれ球を拾ったのは、桃井さんだった。
「走れ、千葉。ボクが必ず、お前にボールを入れる!」
桃井さんは、ボクと杜都さんのボランチが居る中央から、雪峰さんの居る左サイドへと流れる。
「オレが本職で無いセンターバックに入ったと知って、そこを突いて来たな!」
雪峰さんが、警戒しならが桃井さんとの間合いを詰めた。
「だが通させるワケには、行かない!」
「フフ、元々そんなつもりは無いさ」
桃井さんは、反転してボールを下げる。
「ウム、ナイス判断だ、桃井」
そこに、リベロの斎藤 夜駆朗さんが、オーバーラップして走り込んでいた。
「し、しまった!?」
自分が、釣り出されたコトに気付く雪峰さん。
斎藤さんは、右のセンターバックである雪峰さんの居たスペースに、ボールを入れる。
「ナイスパスだ、斎藤。後でジュースでも、おごるぜ」
千葉委員長が、ボールをトラップした。
「気を付けろ、千葉。岡田先パイが、来てる!」
桃井さんが、ナゼか味方であるハズの、岡田先パイを警戒する。
「ああ、わかってるさ……」
岡田先パイの脚が、千葉委員長のボールをよこせとばかりに、刈り取ろうとする。
「だが、ゴールを決めるのはオレだ!」
一瞬だけ早く、千葉委員長がシュートを放った。
「させるかァ!」
海馬コーチが、重そうなお腹を揺らしながら、必死にセービングをする。
右の脇を締めて、自分の右側を抜かれまいとする防御態勢だ。
「あ~あ、逆取られたね」
「近い方(ニア)を狙ってくるのが普通ですが、あえて遠い方(ファー)を狙って来ましたね」
シュートは、海馬コーチの左手側を悠々と抜け、ゴール左隅に決まっていた。
「岡田先パイ、これで並びましたよ」
背中の男に言い放つ、千葉委員長。
「ケッ、ナマイキなガキだぜ。だが、並んだだけだ……覚えとけ」
岡田先パイは、自陣に引き上げた行った。
「スマンな、オレが釣り出されたばかりに……」
「じ、自分も、ボランチとしての対処が甘かったであります」
雪峰さんと杜都さんが謝ってるケド、本当に悪いのはボクなんだ。
「取られたモノは、悔やんでも仕方ありませんよ。気持ちを切り替えましょう」
「そ~そ、エセマジシャンの言う通りだ」
「誰がエセマジシャンですか……まったく」
黒浪さんと、柴芭さんのやり取りに、少し空気が和む。
「またあのキーパーから、2点以上取らなきゃ行けなくなっちまったな」
「ええ、ですが相手の弱点は明白です。左サイドから、積極的に仕掛けましょう」
柴芭さんも、曖経の弱点を把握しているみたいだった。
試合再開のホイッスルが、鳴り響く。
今度は柴芭さんが、中央から仕掛けた。
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