ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第六章・EP020

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曖経大名興高校のグランド

「しっかし倉崎さん、車椅子に乗らなきゃ行けないって、そんなに酷いケガなのかよ?」
「も、もしや、靭帯をやってしまわれたでありますか!?」
 紅華さんと杜都さんが、皆を代表するかのようにケガの状態を聞く。

「イヤ、幸いなコトに靭帯は無事だったよ。だが、骨にヒビが入ってな。残念ではあるが、しばらくはチームに合流できないだろう」
 ギブスと包帯で、しっかりと固定された右脚を摩る倉崎さん。

「そうだよな、今年の新人王は絶対に倉崎さんだと思ってたのに……悔しいぜ!」
「まさか、オレらがフットサル大会で対戦した死神が、プロ入りして倉崎さんにケガを負わすとはな」
「あの大会、恐らくクラウド東京のスカウトか、チーム関係者でも来ていたのだろう」

「正解ね、雪峰。ワタシが何人か、呼んで置いたよ」
「か、監督がですか!?」
「そう言やセルディオス監督は、最初から死神に注目してたよな?」

「まあね。才能ある若い選手、できるだけ高いステージの試合、立たせたいね。美堂は家庭に色々トラブルあって、辛い人生を歩んできたのよ」

「お陰でオレらは、完全なる噛ませ犬にされちまったケドな」
「そうだな、紅華。あの試合、オレたちは死神に後半だけで、10点も献上してしまった」
「自分の力の無さを、痛感したであります!」

「黒狼たるオレさまも、なにも出来なかったし……」
「お前、オオカミやのうて、ただの駄犬やんけ」
「なんだとォ、1回戦で負けたクセにィ!」

「まあまあ、2人とも落ち着いて。それより今からバスに乗って、相手の学校のホームグランドに向かいます。準備してくださ~い」
 学校の制服姿の千鳥さんが、保育士みたいに黒浪さんと金刺さんをなだめなる。

「海馬、最高の見せ場よ。頼むね」
 セルディオス監督が、バスの運転手に向って言った。

「なんでそうなるんスか、まったく……オラ、みんな乗れよ。乗り遅れたヤツは、置いてくかんな」
 海馬コーチの大きな声で、一斉にマイクロバスへと駆け込むデッドエンド・ボーイズ。

 バスは、春の風の中を軽快に走り出した。
桜もピンク色の花びらは既に落ち、深緑の若葉が芽吹き始めている。

「今日の練習試合の相手は、曖経大名興高校サッカー部だ。ちなみに一馬の母校でもある」
 最前列に座った雪峰キャプテンが、チームメイトに向って言った。

「それは少々、おかしくありませんか。彼は自分の学校から、歩いて練習場まで来ているのでしょう?」
「わざわざバスで移動する距離では、無いでありますな」
 柴芭さんと杜都さんが、ボクを見ながら意義を唱える。

「曖経大名興高校は、名古屋市内の真っただ中にあってな。敷地内にグランドは無く、かなり離れた場所に大きなグランドを持っているんだ」

「へェ、そうなのか。曖経大名興高校って言や、スポーツの名門校だから当然か」
「ねえトミン。確か野球が強い学校だよね」
「プロの野球選手も、何人か居るんじゃ無かった?」

「お前ら、ケッコー詳しいな。アメリカに行って活躍してる、大物も居るくらいだ」
 最後列のど真ん中に陣取って、左右に女子高生たちをはべらす紅華さん。

「ピンク頭の野郎、どんだけハーレムしてやがんだ。こっちの隣は、イソギンチャクだってのによォ。ああ、オレさまも、千鳥さんの横に座りたかったぜ」
 黒浪さんの視線の先に座る千鳥さんの隣には、大量のカメラ機材が積まれてあった。

「野球の球場も、併設してあるらしい。寮なども、完備されてるそうだ」
「なんだかウチ、ただの学校に完全に負けてますよね、倉崎さん」
「そ、それを言うな、紅華。これからだ、これから……」

 バスは名古屋市街を後にし、隣の市へと入る。
周りは次第に田園風景となり、遠くに山々も見える。

「やっと着いたぜ。まさか、30分もバスに揺られるとはよ」
「こない田舎なら、土地代も安いんちゃうか?」
 敷地内の坂を降った先の駐車場で、ボクたちはバスを降りた。

「ゲゲッ、またガラの悪そうなヤツらが、ゾロゾロと歩いて来やがったぜ」
 グランド隣の木陰で、ユニホームに着替える紅華さんが驚いてる。
でもアレ、うちの学校の先輩なんだよね。

 岡田先輩を先頭に、曖経大名興高校サッカー部が、気怠そうにこちらに向って歩いて来ていた。

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ある意味勇者の魔王征伐~第11章・31話

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兄弟の激闘

「ギスコーネ、テメーがサタナトスの野郎を手引きしたってのは、本当か!?」
 バルガ王子が、氷の剣を持って迫り来る弟に向って言った。

「ええ、本当ですよ。ボクが海皇の息子と知ってか、向こうの方から近づいて来ましたよ」
 コキュー・タロスの造り出す氷は、壁や天井を伝ってバルガ王子率いる海皇パーティーへと迫る。

「彼とは近くの港町の酒場で、会いましてね。ボクが海皇になる策略を、持ち出して来たんです」
「テメー、そんなモンに乗ったのか!?」

「彼がボクを利用しようとしているのは、明白でしたがね。少なくともカル・タギアを混乱に陥れるコトが出来そうだったので、乗ってしまいましたよ」

「そ、そんな。カル・タギアを混乱させたのが、バルガ王子の弟であらせられる、ギスコーネさまだったなんて!?」
 凍傷を受けたティルスが、驚愕の表情を浮かべた。

「まずはボクのシンパだった7海将軍(シーホース)の、メディチ・ラーネウス、ペル・シア、ソーマ・リオをアイツの剣で魔王に変えて、他の7海将軍を襲わせて魔王に引き入れたのですよ」
「それで、ガラ・ティアたちは魔王にされちまったのか」

「父上である海皇ダグ・ア・ウォンにも、なんとか一撃を加えるコトに成功したんですが、母上に深海の宝珠へと逃げられてしまったのは、誤算でしたね」
「何だって、そんなコトを。テメーの母親は、その為に命を落としたんだぞッ!?」

「母上……あの女は、死にましたか」
 少しだけ、表情を変えるギスコーネ。
けれども直ぐに氷の剣を高く掲げて、兄の元へと歩みを進める。

「海の女王シャラ―・ベラトゥは、確かにボクを産んだ実の母親です。ですが、海皇の後継者に兄上……あなたを指名したのですよ」
 氷の剣が振り降ろされ、絶対零度の一撃が猛吹雪(ブリザード)と共に放たれた。

「そんなコトで……そんなつまんねーコトで、お前は……」
 バルガ王子の、黄金の長剣が光輝く。

「な、なにィ!!? この光は一体……」
 コキュー・タロスの氷の一撃が徐々に押し返され、焦るギスコーネ。

「実の母親を、殺しちまったのかよォ!!?」
 黄金の太陽の一撃が、氷の世界を完全に跳ね除けた。

「グワアアァァーーーーーーッ!?」
 弾き飛ばされる、ギスコーネ。
氷の剣が、金属の床の上を転がる。

「バ、バカな……ボクのコキュー・タロスの絶対零度を、いとも容易く砕くとは……兄上の剣は一体何なのだ!?」

「 黄金剣『クリュー・サオル』。オメーの母親が、自分の命と引き換えにくれた剣だよ」
 無様に倒れた弟に、哀れみの瞳を向ける王子。

「あの女は、そこまで兄上に肩入れしようと言うのですか。だ、だがボクだって、終わりはしない。魔王にさえなれば、兄上など!」

「オメーが魔王になるコトは、無いさ」
「な、何を言って……ああッ!?」
 自らの手を見て、目を見開くギスコーネ。

「ボクの手が……黄金に……イヤ、手ばかりでは無い。脚や、全身が黄金に換わって!?」
 しばらくすると、床に無様にひれ伏す黄金の像があった。

「ギスコーネ、何がお前を狂わせた。お前を狂わせたのは、このオレなのか……」
 バルガ王子はそう呟くと、床に転がった氷の剣を拾う。

「どうやら呪いだのの類もかかって無い、たたの氷の剣の様です。王子」
 シドンが、知識を活かして剣を鑑定する。

「ティルス」
「は、はい。何でしょうか、バルガ王子」

「悪いんだがコイツの剣、お前が使ってやってくれねェか?」
「わ、わたしにですか。わたしに使いこなすコトなど……」

「イヤ、出来るハズだ。母上の力によって甦った、今のお前ならな」
 バルガ王子が、ホールの天井から釣り下がる巨大なタマゴを見る。
その中には、海皇ダグ・ア・ウォンが捕らわれていた。

「わ、解りました。やってみます!」
 王子に言われ、コキュー・タロスを振り下ろすティルス。
無数の氷の刃が、ホールとタマゴとを固定していた触手を切り裂く。

「やりやしたね、王子」
「これで、サタナトスの野望もお終いだぜ」
「海皇サマが居てくれはるなら、カル・タギアも再建できんな」

「残念だが、遅かった様だ……」
 喜ぶ漁師兄弟や見習い料理人に、水を差す王子。

「どうやらオヤジは、大魔王になっちまったみてーだぜ」
 海皇パーティーの目の前で、巨大なタマゴが割れ、中から巨大な腕が出現した。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第05話

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2つの3角地帯

『わたし達、2人のオピュク。ユニット名は……』
『サラマン・ドール』

 魅惑的な笑みを浮かべる、2人のデジタルアイドル。
彼女たちに向けて放たれたフラッシュの量は、それまでのアイドルを合わせた数をも上回っていた。

『やれやれ、勝手にユニット名をきめてしまうとは、困ったモノだな』
『アラ、本名の命名は、そちらにお譲りしたのですから……』
『ユニット名くらいは、こちらで決めます』

 リビングの薄型テレビに映るレアラとピオラは、自然な表情で切り返す。
その仕草は、人間にしか思えなかった。

『ところで久慈樹社長。彼女たちは実体の身体は持っているんですか?』
『現在はドライアイスのミストに、映像を照射してるみたいですが?』
 記者席からまた、質問が上がる。

『残念ながら、まだ開発中の段階でしてね。去年買収した、南波義肢研究所にてボディを制作して貰ってますよ』
『では、天空教室への参加は、それからと言うコトに?』

『いえいえ、簡易的な身体を用意してあるんです。カトル、ルクス』
 天空教室に3組いる双子姉妹の、最後の1組が呼ばれた。

 ステージの左右から、星のように明るい金髪の少女たちが歩いて来る。
2人はそれぞれ、30センチくらいの人形を抱えていた。

『は、始めまして、カトルです。ボクたちはアイドルではありませんが、天空教室で2人のサポートをするコトになりました』
 青く澄んだ瞳で、真っすぐに前を見る少女。

『このドールは、ボクたちが首に付けているコミュニケーションリングと連動していて、ドールが見る映像をボクたちも見るコトが出来るんです』
 2人はアイドルたちホドでは無いものの、普段とは違う白いワンピースの衣装を着ていた。

『そのドールと言うのは、どれくらい動けるモノなんですかねえ?』
『ゲームセンターの、景品のぬいぐるみにしか見えませんが』
 辛らつな記者も、居るものだ。

『こう見えて、かなりの開発費をかけているんですよ。レアラとピオラ、中に入ってくれ』
『あまり、気乗りがしませんね』
『この中って、窮屈なんですもの』

 愚痴をこぼしつつも、2人はステージから消える。
すると、カトルとルクスが胸に抱えていた人形の目が光り、動き出した。

『オオ、人形が動いたぞ!?』
『あ、跳んで、床に着地しました!』
『3頭身ほどの大きさの人形が、歩いています』

「なんだか、スポーツ実況みたいになってるな。でも、確かに凄い。動きも滑らかだし、ホントに生きてるみたいだ」
 ボクは、アクセスできないテレビの中の映像に向って、驚きの感想を述べる。

『やはり、髪の色が違うんですね』
『サファイア色の髪がレアラさん、エメラルドグリーンの髪がピオラさんで良いでしょうか?』

『ええ、その通りよ。でも早く、等身大の身体が欲しいモノね』
『この身体じゃ、ロクに腕を組むコトもできないじゃない』
 可愛らしい3頭身キャラが、必死に短い腕を組もうとしている。

『確かにその身体ですと、動きがかなり制限される様ですね』
『ええ。ですが2人はこの通りの、じゃじゃ馬な性格でしてね。これくらい制約されて無いと、授業を大人しく聞かないでしょう』

『アラ、言ってくれるくじゃない。久慈樹社長』
『でもこの身体だって、こんなコトも出来るのよ!』
 髪色の異なる2体の人形が、同時に跳びあがる。

『……ふえ?』
『ふわッ!?』
 後ろにいたカトルとルクスのワンピースが、大きくめくれ上がった。

 白いロングソックスを穿いた2つの太ももの上に、薄いレモン色の布に覆われた3角地帯が出現する。
それが2つも同時に、テレビ画面に映し出された。

『ぎゃあああーーーーーーッ!!?』
『イヤアァァーーーーーーー!!?』
 双子の凄まじい悲鳴が、ボクの家のリビングにも木霊する。

『ヤダヤダァ、映さないでェ!?』
『お願いだから、撮らないでぇーー!!!』
 カトルとルクスの必死の訴えにも、フラッシュの雨は止まなかった。

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一千年間引き篭もり男・第06章・44話

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暗躍する少女たち

「さて、午前中はウォーターライドに、エアバルーンフライトと、結構周ったよな?」
 パルク・デ・ルベリエは巨大なテーマパークであり、それでも全体から見ればごく僅かのアトラクションしか周れていなかった。

「え、ええ。どれも、みんなで愉しめましたわ」
 クーリアが、少し困ったような顔をしながら言った。

 今、ボクたちはお昼を食べに、園内にある巨大なフレンチレストランに居る。
セノンや真央たち、それにクーリアと彼女の取り巻きの11人の女のコたちが、コッコーヴァンやポトフと言ったフランスの家庭料理に、舌鼓を打っていた。

「なあ。午後からは何処を周るんだ、セノン?」
「そうですね、マケマケ。まずはみんなで……」


「あ、あの、よろしければセノンさん」
「ご、午後からは、わたしたちとパレードを見に行きませんか?」
 クーリアのお付きである、ヘルミオネとアンリエッタが、セノンに話しかける。

「ふえ。別にイイけど、それじゃあ、おじいちゃんも一緒に……」

「そ、宇宙斗さまは、わたし達をエスコートしていただけませんでしょうか?」
「あの船が回転するアトラクションに、乗ってみたいのですが?」
 ボクとセノンの間に割って入る、アデリンダとフーベルタ 。

「ボクも、苦手なんだよな。ああ言うの」
「だったら、替わりにアタシがエスコートしてやるよ」
「お、頼めるか、真央」

「ま、真央さま。わたし達と、フリーフォーラーに行きましょう!」
「なんでも自由落下が、体験できるらしいのです」
  レオナとオッテリアが、強引に真央・ケイトハルト・マッケンジーの背中を押した。

「ヴァルナさまとハウメアさまも、ご一緒にいかがです?」
「ささ、皆で楽しみましょう!」
 ヴァルナとハウメアも、リリオペとベルトルダが、強引に連れ去られる。

「なんだか、やけに慌ただしいな」
「そ、そうですわね」
 レストランには、まだ食べかけの皿も多く残されていた。

「仕方ないな、アデリンダ、フーベルタ。苦手だケド、その船のアトラクションに付き合うよ」
 巨大な支柱に支えられた船が前後にスイングし始め、次第に振り幅が大きくなって最終的に一回転し出すアトラクション。

「ええ!? えと……大丈夫ですのよ、無理はなさらずに」
「わたし達は、シルヴィアたちを誘いますから」
 2人も慌ただしく、レストランから走り去って行く。

 レストランには『偶然』にも、ボクとクーリアこと、クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダだけが取り残された。

「2人だけに、なってしまったね」
「は、はい。申し訳ございません。あのコたちったら……」

「イヤ、彼女たちもキミのコトを思って、やったのだろう?」
「ええ、みんな優しいコたちばかりです」
 ボクは、少し照れた女のコをつれて、レストランを出た。

「わたくしやあのコたちが、こうして無事に遊園地を満喫できているのも、宇宙斗艦長がフォボスの燃え盛るプラントから、救い出してくれたお陰ですね」
 当てもなく歩く遊園地中央の大通りで、クーリアが前に走り出して振り返る。

「そうだったね。あの時は必死で焦りまくってたケド、結果的にキミたちが無事で良かったよ」
 周りには大勢の人々が、笑みを浮かべながら行き交っていた。

「フォボスでわたくし達は、ウィッチレイダーに拉致されて、それから……」
「ボクは、時の魔女の思惑通りに、MVSクロノ・カイロスの艦長になった」

「あの艦の中の街で、わたくしは違う記憶を持っていたのですよね?」
「ああ。キミは学校のクラスメイトで、クラス委員長だった」
 自身が知らない記憶があると知らされたクーリアは、過去に激しい嫌悪感を示している。

「その時のわたくしは、どんな顔をしておりましたか?」
「どうって……ボクに世話を焼いてくれる、優等生の女のコって感じだったかな?」

「そう……ですか。それならまあ……許しましょう」
 クーリアは、ボクの傍らによって腕を巻き付けた。

「観覧車……乗ってみたいです」
「確か、太陽系で最大の観覧車なんだよな。よし、行ってみるか」

 ボクは、クーリアと手を繋いで、観覧車へと駆け出す。
その間にも11人の少女たちが、セノンや真央たちを近づけまいと、必死に暗躍していた。

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キング・オブ・サッカー・第六章・EP019

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車椅子

 はああ……昨日はセルディオス監督に、こっ酷く怒られちゃったな。
次の日、ボクは昨日の出来事を思い出し、ため息を付いていた。

 クラス委員長の千葉さんの妹……千葉 沙鳴ちゃんだっけ。
あんなコトがあったケド、今日は学校に来てるのかな?

 教室の窓から道路を挟んだ向こうに見える、中等部の校舎。
眺めたところで、彼女が登校しているかなんて解らない。

 沙鳴ちゃん、あまり落ち込んでないとイイんだケド。
そんなコトを考えながら、なんとかお昼までやり過ごした。

「お、やっぱここに居た。昨日は、悪かったな」
 屋上でパンを食べていると、千葉さんがやって来て、ボクの頬っぺたにジュースをくっつけた。

「まあ、飲めや」
 うわ、冷たい!?
でも、ボクの大好きな、オレンジジュースだ。

「今日はアイツ、来てねェんだわ」
 や、やっぱり……。

「元気だけが取り柄のバカだと思ってたケド、それなりに女になってやがったよ」
 奈央もだケド、女のコって大人ぽくなるのが早い気がする。

「妹が殺されかけたんだ。兄貴としては、黙っちゃいられねえ」
 ……え?

「試合の前に、岡田先輩に抗議するつもりだ。それでどうなるかは、解らん。試合に出られなくなるかも知れないし、それ以上のコトになるかも知れん」
 立ち上がり、背中を向けるクラス委員長。

「だが、お前には伝えて置きたかったんだ」
 そう告げると、元来た階段のある建屋へと入って行った。

「千葉さん、あんなコト言ってたケド、大丈夫なのかな……」
 周りには誰もいない、帰り道。

「岡田先輩って、なにするか解らないし、沙鳴ちゃんを本気で殺そうとしてたモンな。何事もなく終わってくれればイイけど……」
 ボクは1人、河べりの土手を歩いて、練習場に向かった。

「御剣、今日は時間通りに来たみたいだケド、昨日のコトあるね。今日の試合、使わないよ!」
 何事もなくと言うのは、ムシが良過ぎた。

「まあまあ、セルディオスさん。一馬も他のみんなも、本分は学生なんですから」
 すると、車椅子に乗った倉崎さんが現れて、監督をなだめる。

「……!?」
 く、倉崎さん、やっぱりケガが……。

「ン? ああ、コレか。死に神のヤツに、こっ酷く吹き飛ばされちまったからな」
 一昨日の試合で、美堂さんと戦った時のコンタクトプレイ。
車椅子に乗らなきゃいけないくらいの、大ケガなんだ。

「倉崎、無理するんじゃ無いよ。チームドクターに、安静にするよう言われてるね」
「大丈夫ですよ。今日の試合、オレが出場できるワケじゃありませんし」
「だったら尚更、家で寝てるね」

「いい加減、デッドエンド・ボーイズも、軌道に乗せなきゃ行けませんからね。落ち込んでられないのも、不幸中の幸いです。ケガで車椅子でも、チームオーナーとしての仕事くらいはこなせますから」

「そうですね、オーナー。正直、地域リーグへの申請も、通るかどうか微妙なところです」
 練習場に現れた、雪峰さんが言った。
ユニホーム姿を見慣れてるケド、今は自分の高校の制服を着ている。

「雪峰、一体なにが問題なんだ?」
「やはりですね。いくら地域リーグとは言え、高校1年生が主体のチームですと、申請が中々受託されませんし、ホームスタジアム問題も未解決のままです」

「メタボなオッサンが、1人いるじゃない」
「ええ、海馬コーチが居てくれるから、まだ話が通し易いんですよ」
「海馬も、たまには役立つのね」

「後は、ホームスタジアム問題か」
「一応、何件か良さそうなスタジアムを、ピックアップしてみました」

「わ、悪いな、任せきりで。どれどれ?」
 雪峰さんのタブレットを覗き込む、倉崎さん。

「このスタジアム、良さげじゃないか?」
「清須スタジアムですね。規模は、8000人収容。一応、夜間照明も設置されてます」

「とりあえず、ここに話を振ってみてくれないか?」
「了解です、倉崎さん」

「それなら佐藤さんの会社にも、協力を仰いだ方が話が纏まると思うよ」
 練習場に現れた、柴芭さんが言った。

「ウム、そうだな。金刺、頼めるか?」
「おうよ、キャプテン。任せとき」
「偉そうに。電話するだけじゃんか!」

「解らんかァ。コネは大事やで。社会、生きてくんにはな」
「まだ高校生のクセに!」
 練習場に来て早々、険悪なムードになる金刺さんと黒浪さん。

「あとは、サポーターだな」
「積極的に、増やして行かないと行けませんからね」

「ま、そっちはオレに任せな。少なくとも、7人は確保だぜ」
 紅華さんが、いつもの7人の女子高生を引き連れ現れる。

 みんな、チームの役に立ってるな。
ボクも、頑張らないと……次の試合から!

 間近に迫った母校との練習試合、監督の不興を買ったボクは試合に出られなかった。

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ある意味勇者の魔王征伐~第11章・30話

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栄枯盛衰

「なあ、ティルス。建物ン中は化け物だらけとは言え、こりゃあ凄まじい建築技術じゃねえか」
 巨大なカニの魔物を蹴散らしながら、傍らで戦う少女に問いかけるバルが王子。

「オレはカル・タギア以外は詳しくねェが、外の世界にゃこんな技術の高けェ国も存在してるのか?」
「申し訳ございません。わたしも外界の世情には疎くて……漁師であるビュブロスさまとベリュトスさまなら、ご存じなのでは?」

 王子の側近として仕えるティルスが、申し訳なさそうに漁師の兄弟に視線を振る。

「どうだかな。オレらが漁の途中で寄るのも、小さな漁村かせいぜい中規模な交易都市くれェだしよ」
「兄貴の言う通りだぜ。ここなんて壁から床まで金属だかんな。どんだけ金かかってんだ」
 兄は巨大な銛で、弟は2つの銛で、半魚人の群れを薙ぎ払いながら答えた。

「ワイも似たようなモンやで。海産物以外の食材の買い付けに寄る街も、1っちゃんデカいんはヤホーネスや。城塞都市として規模はハンパ無いんやケド、ここのが建築技術は上やろな」
 華麗な包丁さばきで、大型の魚タイプの魔物を3枚におろすアラドス。

「ですがアト・ラティアは、失われた伝説の都なのです。この宮殿を創り上げた高度な建築技術も、既に失われてしまったのでしょう」
 魔法を放つワンドの能力を持ったレイピアで、敵を切り裂くシドン。

「これだけの技術があるヤツらが、滅んじまったんだよな」
「優れた技術を持ち交易や農耕で栄えた大国や、強大な軍隊を備えた軍事国家であっても、多くは歴史にその名を留めるだけとなっております」

 金色に輝く柱には華美な装飾が施され、壁には巨大な絵も飾られている。
けれどもそれらの芸術を創った者の姿は存在せず、サタナトスの放った魔物が我が物顔で闊歩していた。

「栄枯盛衰ってヤツか。今は双子の司祭が持ちこたえてくれているが、カル・タギアもこうなっちまう寸前だ。なんとしても、オヤジを見つけ出さねえとな」

「王子、その双子司祭様から預かった宝珠が示す、強大な魔力の反応がかなり近づいています」
「ホントか、シドン」
「ええ。反応からすると、突き当りのホールの先でしょう」

「いよいよだな。慎重に、行くぞ!」
 バルガ王子の号令の元、海皇パーティーの6人は駆け出した。

「オ、オヤジ!?」
 ホールの天井を見上げる、王子。
吹き抜けの大きなホールに、粘着質の殻に覆われた巨大なタマゴがぶら下がっていた。

「こ、この巨大なタマゴが、海皇サマだってのかよ!?」
「見ろよ、兄貴。タマゴの中に、何かうごめいているぞ!?」
 それぞれに銛を身構える、漁師兄弟。

「海皇ダグ・ア・ウォンさまが、殆ど魔王となってしまわれております!?」
「こりゃあ早よ救い出さんと、厳しいでェ」
 ティルスとアラドスが、それぞれの武器を手に斬りかかる。

「やらせはしないよ!」
 タマゴを支える触指を斬ろうと跳んだ2人を、斬撃が襲った。

「きゃああッ!?」
「グハッ!?」
 ホールの床に叩き付けられる、2人。

「ティルス、アラドス……クソ、誰だ!?」
 王子は跳躍して、ホールに倒れる2人の前に飛び降りる。
漁師兄弟とシドンも続き、周りを警戒しながら2人を助け起こした。

「誰だとは、酷いじゃないか……兄上」
 声の主が、黒いマントを翻しながら上空から、ゆっくりと舞い降りる。

 トンっと床に足を付けた男は、漆黒の鎧を身に纏っていた。
ウェーブのかかったダークグリーンの髪の毛に、灰色の肌をしており、眼は紅く充血していた。

「お前は、ギスコーネ!?」
 黄金の長剣を身構える、バルガ王子。

「やっと気付いてくれましたか。母の違う兄弟とは言え、冷たいではありませんかな?」
 腰の鞘から、剣を抜く男。
剣から放たれた冷気が、辺りの景色を瞬時に凍らせる。

「王子、ティルスとアラドスの傷が、凍傷になっております。お気を付けを」
「了解した、シドン。お前は引き続き、2人の回復を頼む」

「おや、仲間の加勢を借りなくても良いのですか、兄上。この氷結の剣『コキュー・タロス』は、生易しいモノではありませんよ?」
 男が、義理の兄に向かって歩みを進めると、周りの柱や床もそれに連れて凍り付いて行った。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第04話

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レアラとピオラ

「久慈樹社長は、オピュクをデジタルアイドルとして売りたいだけ……イヤ、違うだろうな」
 デジタルに疎いボクには、久慈樹社長のやろうとしている計画の詳細までは解らない。
けれども、単純なアイドルプロデュースじゃ無いコトは、なんとなく想像が付いた。

『えっとですね。つまりオピュクの住む世界は、我々の現在の世界と同じく、原子や分子から出来ていると言われるのですか?』
『それが事実だとすれば、とんでも無いデータ量になりますよ?』

 セルリアンブルーの長い髪の少女が、矢継ぎ早に浴びせられる質問とフラッシュを前に微笑んでいる。
ボクの眼にも彼女は、人間にしか見えなかった。

『芸能記者にしては、中々に理解が早いですね。仰る通り、我々の世界の原子レベルまで再現しようとすれば、それこそサーバーが何台あっても足りません。不本意ながら原子のサイズをかなり大きく見積もって、対処しているのですよ』

『とは言え、それでもかなりのサイズのサーバーが必要になるでしょう?』
『彼女を動かすだけで、相当なサーバー負荷がかかるハズですよね?』
『一体どうして、ユークリッドは彼女を創ろうと思われたのですか?』

 ドライアイスのスモークが漂う記者席から、次々に飛ぶ質問。

『そうですねえ。強いて言えば、実験の為ですよ』
 久慈樹社長は、遂に『実験』という言葉を口にした。

『実験……と、仰いますと?』
『オピュクで、一体何を実験しようと言うのですか?』

『人工的に生み出された彼女たちが、天空教室の生徒である人間の少女たちとどう違い、どこが優れているかを見極める実験ですよ』
 どこか形式ばった、久慈樹社長の説明。

『えっと……いま、彼女たちと仰いましたが、言い間違いでは?』
 記者の1人が、ミスを指摘する。

『オピュクは、デジタルデータです。デジタルは当然ながら、複製(コピー)が可能なのですよ』
 するとカメラが、記者会見場からステージへと切り替わった。

『皆様、わたしたちはサーバーさえ確保できれば……』
『どれだけでも、同時に存在できるんです』
 ステージのオピュクが、左右にスライドし2人に増える。

『ス、スゴイ!?』
『オピュクが、いきなり2人になったぞ!』
『もっと増えるコトは、可能なのでしょうか?』

『残念ですが今は、サーバー容量や処理スピードが限界の為……』
『わたし達2人を運用するのが、精一杯なのです』
 フラッシュの雨の前で、2人になったオピュクが人間のように微笑んだ。

『社長。2人とも、オピュクと呼んでしまって宜しいんでしょうか?』
『同じ名前に見た目もまったく同じでは、判別が難しいですよね』

『では、こうしましょう』
『では、こうしましょう』
 2人のオピュクの声が、完全にシンクロする。

『オオ、これは!?』
『髪の色が変わったぞ!』

 記者たちの感嘆が説明する通り、1人のオピュクの髪色がサファイアブルーへと変化し、もう1人の方はエメラルドグリーンへと変化した。

『そうですね。便宜上、サファイア色の髪のオピュクをレアラ、エメラルドグリーンの髪の方はピオラと呼ぶコトとしましょう』

『いくら創造主であっても、人の名前を勝手に決めないでくれるかしら』
『でもまあ、悪くない響きね。わたしはピオラでいいわ』
『仕方ありませんね。わたしも、レアラでケッコウよ』

 まるで人間のような感情を現わす、2人のオピュク。
2人の反応に対しても、記者席から驚きの声が上がった。

『それで久慈樹社長』
『彼女たちを使って、どんな実験をする予定なのでしょうか?』

『まずレアラとピオラには、天空教室で学んでもらいます』
『ですが彼女たちは、デジタルの世界の存在なのですよね?』
『その気になれば、いくらでもネットにアクセス出来てしまうのでは無いですか?』

『ええ。ですから2人には、ネットへのアクセスを制限します。それでちゃんと学力が向上するかどうか、調べてみたいのですよ』
 つまりそれは、ボクや他の教師たちの能力を計るための実験でもあるんだ。

『天空教室には、注目が集まる一方、批判も多く寄せられてましたよね?』
『学校教育を否定したユークリッドが、どうして学校教育まがいの教室などを、始めるのか……と』
『勉強だけで言えば、今までの教育動画で事足りるワケですからな』

『ユークリッドは、学校教育を否定などしてませんよ。更に素晴らしい教育方法があると、言ったまでです。我々はそれを、教育動画と言う形で証明して来ました』

 席を立ち、ステージへと歩みを進める久慈樹社長。

『ユークリッドは今、教育動画を越える新たなステージへと、踏み出したのです』
 社長の両脇に寄り添う、レアラとピオラ。
フラッシュのシャワーは、長い間止まなかった。

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