ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第四章・EP009

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スカウトノート

「それはそうと倉崎。プロであるお前が、こんなところで何をしている」
 葛埜季さんが、仁王立ちのまま倉崎さんを睨みつけている。

「決勝の対戦相手の情報を調べようと、チーム名で検索かけたら、なぜかお前の情報がヒットした」
「しかも代表取締役だと。どう言うこっちゃ?」

 宝木さんは、雪峰さんが持ってるようなタブレットを倉崎さんに見せつけ、勇樹さんはなんだかヤンキー座りに戻っている。

「なにと言われても、そこに書いてある通りだ。オレは、デッドエンド・ボーイズの代表取締役であり、今はチームを作っている真っ最中だ」

「ハアァッ、オレら高校生やぞ!?」
「プロとして着実に実績を残しているお前が、どうしてそんな茶番をする」
「まずはプロとしてのキャリアを、固める時であろう」

 そう言えば倉崎さんって、どうしてチームを創ろうと思ったんだろ?
何となく自然にコトが進んじゃって、疑問に思わなかったな。

「それ、オレさまも聞きたいぜ」
「オレも一度、伺いたいと思っていました、倉崎さん」
「部隊創設の経緯、是非とも聞いてみたいであります」

 どうやらみんなも、ボクと同じ気持ちなんだ。

「そうだな。いずれ話そうとは、思っていたコトだ……」
 けれども倉崎さんは、しばらくの間沈黙する。

 なんだろう。
話し辛いコトなのかな?

「実はオレには、夜湖舞と言う弟がいた」
 サングラスを外し、目を閉じる倉崎さん。

「へー、倉崎さんって、弟がいるんだ」
「違うぞ、黒浪。倉崎さんは、『弟がいた』と言ったんだ」

「何だよ、同じコトじゃ……あ!」
 黒浪さんも、気付いたみたいだ。

「察しが良いな、雪峰。そう……弟は既にこの世にはいない」
 体育館の大きな窓に、雨粒が当たる。
雨は直ぐに土砂降りとなって、ガラスの向こう側に打ち付けた。

「ヤコブは、生まれつき病弱でな。スポーツのできる身体では無かったが、オレがサッカーの試合をするって言うと、よく応援に駆けつけてくれたものさ」

「プロサッカー選手であり、高校生でもあるお前が、チームを作っている理由がそれか?」
「そうだ、葛埜季」
 仁王立ちの男に、苦笑いをする倉崎さん。

「弟はサッカーができない代わりに、サッカーゲームが好きでな。特に監督となってチーム創りをするタイプが、何よりのお気に入りだった」

 それで倉崎さんは、ボクたちを集めてチーム創りを……。

「つまりオレさまたちは、ゲームのリアル版かよ。なんだかヘンな感じだぜ」
「確かにな。だが弟さんの遺志が、オレたちをここに集わせたのか」
「身勝手な理由であるコトは、理解している。だが……」

「ま、理由はどうあれ、オレさまは倉崎さんのチーム、気に入ってるぜ」
「じ、自分は猛烈に、感動しているでありますゥ!」
「オイオイ、そこまで泣くコト無いだろ、杜都ォ!」

「実はな、一馬……」
 うわ、急にボクに振られたァ。

「お前に預けたスカウトノート、アレの殆どはヤコブが創ったモノなんだ」
 え……?
ボクは慌てて、カバンからノートを取り出す。

「アイツは、自分がプレイヤーになれない現実を受け入れ、サッカーチームを作るスカウトやマネージメントの勉強を始めていた。そのノートも、アイツが必死に動画や資料を見まくって、作り上げたモノさ」

 そんな大事なノートだったんだ。
倉崎さんはそれを、ボクにずっと預けてくれていた。

「そう言えば一馬、ずっと持ってたよな」
「あまり気に留めずにいたが、そんなに大切なモノだったとはな」

 雪峰さん、それボクが一番驚いてるんですケド。
雑には扱ってないケド、みんなとの勝負の間はベンチとかそこら辺に置きっぱだったし。
あらかじめ言って置いてよ、倉崎さん。

「オレや弟の我がままを、押し付けてしまってすまない。だが今、これだけは言える」
 みんなの注目が、倉崎さんへと集まる。

「デッドエンド・ボーイズは、オレとヤコブが目指す理想のチームだ」

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キング・オブ・サッカー~登場人物紹介

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宝木 名和敏(ほうき なわとし)

ポジション :MF
身長    :180cm
体重    :72kg
利き脚   :右脚
出身地   :京都府
好きな食べ物:ニシンそば、湯豆腐、鯖ずし
嫌いな食べ物:チーズ

プロフィール

 三木一葬の1人。
倉崎の率いるデッドエンド・ボーイズが出場したフットサル大会に、チェルノ・ボグスの一員として参加し、司令塔として中盤を支配した。

 京都の名門仏教高校の、エースだった男で、正確無比なプレイスタイル。
短いパスでゲームを組み立て、相手の隙を突いて前線に剃刀のような長いパスを通す。

 真面目な優等生タイプで、勇樹のお目付け役でもある。
チェルノ・ボグスでは圧倒的な統率力の葛埜季に、キャプテンを譲っているが、高校では3年の夏の大会に敗退するまでキャプテンを務めた。

 倉崎や、三木一葬の他の3人とは同学年であり、ジュニアユース、ユースなど、世代別の代表に共に呼ばれることが多く、互いに顔見知り。

この世界から先生は要らなくなりました。   第05章・第10話

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奪い合いの戦争

「まったく先生は……ウチのクラスの住人は、ドンドン増えるわね」
 元々の部屋の主である、瀬堂 癒魅亜がヤレヤレといった表情を浮かべる。

「やはり怒っているのか。す、すまない」
 ユミアが怒るのも、無理もない。

 最初は彼女1人で占有していた部屋は、久慈樹社長の思惑によって14人の少女が暮らし始めた。
タリアの事件で関わった7人の被害者の少女たちを迎え入れ、シアたち3姉妹も加わり、今周りを見渡すと23人もの少女が跳ね回っている。

「入院中のキアも入れると、このフロアに24人だからな」
「流石に色々と、問題が出て来てるわね」

「す、すみません。わたしには、こんな優雅な暮らしは……」
「ち、違うのよ、シアちゃん。そう言う意味じゃないわ」
 慌てて取り繕う、ユミア。

「せやで、シア姉。お姉が入院しとる間、ここで暮らしてわかったんや」
「ぜんっぜん、優雅ちゃうで。特に朝は、奪い合いの戦争や」

「奪い合いって、何を奪い合うんだ?」
「そんなん決まっとるやろ、先生」
「カワイイ顔のウチらも、毎朝出すモン……ムグッ、ムグゥ!?」

「ミアちゃん、リアちゃん、こっち来て遊ぼうか」
「そうだ、おやつのドーナツもあるよ」
 同じ双子のカトルとルクスに、口を塞がれ連れ去られるミアとリア。

 周りを見渡すと誰もが、頬を赤らめ視線を逸らされる。

「ああ、そういうコトか」
 ユミアが言った問題の一つは、確実に理解できた。

「でも、これ以上口に出したらどうなるか、わかってるでしょうね?」
「わ、わかってるよ。トイレが足りなくて……あ?」
 口元に笑顔を浮かべながら、ボクをギロっと睨むユミア。

「ゴ、ゴメン、なんでもない。いや~なんだったかなあ」
「もういいわよ」
 目の前で栗毛の少女が、呆れ顔をした。

「わたし1人が占有してた時は、ワンフロアにトイレが3つもいるのかと文句を言ったケド、今はなんでもっと作らなかったのかと、久慈樹 瑞葉を恨んでいるところよ」

「ずいぶんな恨まれ方だな。確かにワンフロアと言えど、巨大マンションの最上階を丸々使ってるんだから、少ないと言えば少ないのか」

「今じゃ、完全に足りてないわ」
「かと言って水回りは、簡単に増設できるモノじゃないっスからねえ」
「そうなのか、テミル?」

 不動産屋の娘で、ボクの新居も見つけてくれた天棲 照観屡に、見解を聞く。

「古い木造建築ならともかく、ここまでデザインされた超高層マンションの最上階っスよ。設置場所の問題もあるし、配管も考える必要もあるっス。とくに配管は、上下水道になるから尚更っスね」

「簡単には増設できないってコトか。今はどうしてるんだ?」
「1つ下の階のトイレに、駆け込んでるわ」
「場合によっては、更に下の階に行ってるっス」

「女の子ってのは、色々と大変なんだな」
「それに社長ったら、わたし達がトイレに駆け込む様子を、カメラで撮って流してるのよ」

「え、授業風景以外の撮影は、禁止って約束じゃ?」
「それはあくまで、このフロアの話よ。下の階は、わたしのモノじゃ無いから、カメラを回されても文句は言えないのよ」

「なるホドな。しかし、ただトイレに駆け込むだけの動画に、需要はあるのか?」
「それが、めっちゃ再生されちゃってるんだよ、先生」
「な、何とかなりませんでしょうか?」

 真っ赤な顔の、レノンとアリスに懇願される。

「一応は掛け合ってみるよ」
「なんだか、頼りないなあ」
「仕方ないだろ、レノン。契約違反でもないんだから」

「……にしてもアイツ、天空教室を完全に見世物にしようとしてるわ」
「キミ以外の13人は、その為に集められたのだろうし、後から入って来たコたちも似たような契約を結ばされてるからな」

「それについてですが、先方さまから打診がありましたわ」
「わたくし達の中で、アイドルユニットを作成しようと言うご提案ですの」

 芸能一家に育ち、芸能界で有名になるコトにノリノリな双子姉妹が、上機嫌に言った。

 

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キング・オブ・サッカー~登場人物紹介

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勇樹 美鶴(ゆうき みつる)

ポジション :FW
身長    :175cm
体重    :67kg
利き脚   :右脚
出身地   :福島県
好きな食べ物:イカにんじん、あんこうのどぶ汁
嫌いな食べ物:パンケーキ

プロフィール

 三木一葬の1人。
倉崎の率いるデッドエンド・ボーイズが出場したフットサル大会に、チェルノ・ボグスの一員として参加し、点取り屋として得点を量産する。

 泥臭く、ボールをゴールに押し込んだり、こぼれ球に反応してゴールを決めるなど、嗅覚で勝負するタイプ。

 生来のヤンキー気質で、直情型。
宝木や葛埜季にたしなめられる場面も多い。

 倉崎や、三木一葬の他の3人とは同学年であり、ジュニアユース、ユースなど、世代別の代表に共に呼ばれることが多く、互いに顔見知り。

一千年間引き篭もり男・第05章・43話

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ゼーレシオン

「艦長、急いで。今のうちに脱出よ」
 トゥランが、公園に開いた穴の中に飛び込んだ。

「アフォロ・ヴェーナーによるレーザー掃射の穴が、そのまま宇宙港に通じているんだな」
 ボクたちは公園から、開けられたばかりの穴の中を降り、宇宙港を目指す。

「隔壁が溶解して高温な上に、回線網が焼き切れてバチバチ言ってるな」
「問題無いわ、宇宙港は直ぐ真下よ」
「ホ、ホントか」

 トゥランの言葉は真実で、隔壁は意外に薄く一瞬で宇宙港に辿り着いた。

「宇宙港(ポート)の中はまだ、普通に空気が存在してるんだな。それに、重力もある」
「あ、見て下さい、おじいちゃん。おっきなホタテ貝が止まっているのです」
 セノンが指さす先には、ホタテ貝の形のアフォロ・ヴェーナーが、その巨体を顕わにしている。

「それにしても、アフォロ・ヴェーナーの向こうは、普通に宇宙空間じゃないか」
「空気は、重力で繋ぎとめているんだ。1気圧よりは小さいケドな」
 ボクの疑問に、真央が答えた。

「遅えぞ、艦長。待ちくたびれたぜ」
 ぶっきら棒な声が、ボクを呼び止めた。

「プ、プリズナーなのか。何だ、その機体は?」
 プリズナーの声は本人からでは無く、宇宙港に浮遊する人型の巨人から発せられる。

「バル・クォーダ。オレ用の、サブスタンサーらしいぜ」
 巨人は髑髏の兜を被り、刺々しい鎧を着た戦士の様なデザインだった。
全身がメタルブラックやシルバーに塗装され、ハードロックな雰囲気を醸し出している。

「どうやらノルニール・スカラが、用意してくれていたみたいなのよ。アフォロ・ヴェーナーに格納される形で、送られて来たわ」
 ノルニール・スカラとは、MVSクロノ・カイロスの艦橋に設置された、カプセルの中に居る存在だ。

 カプセルは、小さな覗き穴意外に中を確認する手段は無く、除き見る者によって中身が異なる。
普段はフォログラムとして行動し、ヴェルダンディを名乗っていた。

「アフォロ・ヴェーナーに比べれば小さいケド、娘たちのサブスタンサーより大きい機体だな」
「トゥランのはギガンティス・サブスタンサーに分類される機体だし、お前の娘のは、グレンデル・サブスタンサーだからちっこいんだ」

「ちなみに彼の機体は、キュクロプス・サブスタンサーに分類されるわ」
「グレンデルやギガンティス、キュクロプス……巨人の種類で、大きさによる分類分けがされているのか」

「そんなコトより、急いで。この宇宙港も、イービゲネイアの管制下にあるのよ。いつ、気圧をゼロにされ、空気を抜かれるか分らないわ」
 アフォロ・ヴェーナーから、貝の入水管のように伸びた乗降口から、搭乗するトゥラン。

「おじいちゃん、マケマケ、わたし達も急ご……うぎゃッ!」
 後ろを見ていたセノンが、乗降口の壁にぶつかった。

「ちゃんと前を見てないからだぜ、ドジだなあ」
「ホラ、行くよ……」
「世話が焼けるんだから」

「あううぅ、アリガトなのですゥ」
 栗色のクワトロテールの女の子は、3人の友人に囲まれながら、アフォロ・ヴェーナーへと吸い込まれて行く。

「後はボクだけか、急がないと」
「まあ待ちな、艦長」
 髑髏の巨人が、話しかけてきた。

「どうかしたか、プリズナー?」
「実はよ。送られてきたサブスタンサーは、もう1機あったんだ」

「え?」
 ボクは思わず、宇宙港の中を視線を泳がせる。

「こ、この機体は……」
 アフォロ・ヴェーナーに隠れるように、白く輝く機体があった。

「どうやら、アンタの機体らしいぜ。ま、乗ってみるんだな」
 ボクの前から立ち去り、宇宙空間に飛び出していく、プリズナーのバル・クォーダ。

「バル・クォーダに比べると、ずいぶんとシャープなデザインだな。なんか、昔に見たロボットアニメに出てきたロボットに、そっくりな気がする」

 白を基調とした装甲に、黒い筋肉が剥き出しになっていて、金色のパーツがアクセントのように、各所に配されている。

「『ゼーレシオン』……確か、そんな名前だったな」
 ボクはロボットを、仰ぎ見た。

 

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ある意味勇者の魔王征伐~外伝・12話

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哀れな生贄(スケープゴート)

「オレに、マホ・メディアの子を殺せと言うのか?」
 酒気を帯びた男の表情が、一層険しくなる。

「魔王の子にございます」
 けれども村長は、一歩も引かない姿勢を貫いた。

「魔王の子であると言う、確たる証拠はあるのか?」
「そんなモノは、どの人間にも言えるコトです。生まれた瞬間を覚えているワケでも無いのに、どうして確実に自分の血統(ルーツ)が正しいと言えましょうか」

「詭弁であろう。これ以上、話を聞く気は……」
「外をご覧なさい!」
 村長は、窓の外を指さす。

 そこにはおびただしい数の羽虫が、街の空を埋め尽くしていた。

「キャス・ギアは、我らが村など比べものにならない、豊かな穀倉地帯にあります。本来であれば稲穂が垂れ、果物が実を着けるこの時期に、何の食料も無いではありませんか」

「それがどうした。全ては忌々しい、バッタどもの仕業よ」
「あなたは、街の惨状から目を背けておられる。街には餓死者が溢れ、民の心が絶望しているこの時に、バッタが 犯人だと正論を説いたところで、何の意味もございません」

「マホの子供たちを、哀れな生贄(スケープゴート)にしようと言う、算段か?」
「誰かが、責任を取る必要があるのです。それが人間では、抗いようのない天災とあっては尚のコト」

「オレたちだって、村の子供たちを神様に捧げただよ」
「でも、一向にバッタの数は減らねえ」
「それどころか、ヤホーネスの国中に広がる勢いだ」

「今こそ悪魔の子らを、討つ時ではありませんか。ムハー・アブデル・ラディオさま、ご決断を……」

 男には、目の前の村人たちこそ悪魔に思えた。
けれども人間とは、そう言った行為を過去からずっと、続けてきた生き物である事も理解していた。

「わかった……引き受けよう」
「おお、誠にございますか。有難うございます」
「だが街の領主にも、話を通す必要がある」

「心配には及びません。既に領主さまには、ご同意いただいております」
「随分と根回しがいいな」

「恐れ入ります。前金ではありますが、報酬をお納めください」
 村長は、金貨の入った袋を幾つか、男の前に差し出す。

「貧しい村と聞くが、ずいぶん羽振りがいいな」
「我らが先祖代々土地を切り開き、蓄えた金の一部にございます。ですがこれだけあっても、何の食料も買えません」

「オレの酒代に消える方が、合理的とは皮肉なモンだな」
 男は袋を掴むと、壁に立て架けた剣を取り立ち上がった。

「ん、コイツは?」
 両開きの扉を押し退け外に出ると、酒場の傍らにやつれた顔の少年が座っているのに気づく。

「サタナトスらが潜む、オアシスの場所を知る案内人にございます」
「役目が終わったら、どうする?」
「我が村には、必要ありませんな」

「ならばオレが預かろう。荷物持ちくらいには、使えそうだ」
「お好きに使っていただいて、かまいません」
 少年はあっさりと、譲渡された。

 それから一行は、領主の邸宅を訪れ兵を借りる。
村長と村人一人は街に残り、ラディオは、兵士とケイダン、若い村人二人を伴って邸宅を出た。

「おお、ラディオさまが、立ってくれたぞ」
「どうかバッタどもを操る、サタナトスめらを討ち滅ぼして下され」
「憎き魔王の子めらに、正義の裁きを!」

 キャス・ギアの大通りには、やせ細った人々が集まり一行を見送る。
領主が意図的に広めた情報に踊らされ、歓声を上げる人々の瞳には、少しだけ希望の光が蘇っていた。

「ここが、キャス・ギアの街か。平地に城が直接建っているし、そこら中に田んぼや畑があるな」
 ラディオ一行が街を出てから数時間後、サタナトスが街に辿り着く。

「でも、何の食料も残されてない。全てバッタに、食い荒らされたのか……」
 バッタの群れの中を進む、サタナトス。
マントの下には、魚の干物や果実が潜ませてあった。

「これは、思ったよりも酷い惨状じゃないか。食料を持ってると解かったら、襲われてしまうぞ」
 サタナトスが、慎重に取引できそうな店を選んでいた頃。
蜃気楼の剣士が率いる一行が、留守を守るアズリーサの元へと迫っていた。

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キング・オブ・サッカー・第四章・EP008

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スーパースターと三木一葬

 チェルノ・ボグスVSマジシャンズ・デステニーの、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
スコアボードには、6-1の数字が書き込まれている。

「終わってみれば、随分と点差が開いちまったよな。なあ、一馬」
 黒浪さんの意見に、ボクもコクコクと同意した。

「柴芭士官が何度もクリアしたので、この点差に納まっているが、それが無ければ」
「そうだな、もっと点差は開いていたハズだ」
 デッドエンド・ボーイズの二人のボランチは、決勝戦の相手を前に気を引き締める。

「柴芭の野郎も、ザマァ無えな。あれだけマジックだの占いだのカッコつけてやがって、決勝には上がって来れねえんだからよ」
 紅華さんが、席を立った。

「オレたちだって、あんなチームに当たってたら負けてただろ?」
「そのチームと決勝で戦うってのに、何言ってやがんだ」
「そりゃな……って、どこ行くんだよ。また女のところじゃねえか」

「決勝まで、少しばかりインターバルがあっだろ。アイツらと、柴芭を冷やかしに行って来るぜ」
「ピンク頭、オメーさいてーだな」
「おうよ。二ヒヒ……」

 紅華さんはそう言うと、7人の女子高生たちを引き連れて、1階に降りて行った。

「カーくん、お疲れ~。試合、どうだった」
 見慣れた顔の幼馴染みが、冷えたオレンジジュースをボクの頬っぺたに押し付けながら、横に座る。

「な、奈央。ど、どうって別に、キーパーだったし」
「カーくん、キーパーはやったコト無いのに、頑張ってんじゃん」
「だって、やるしか無いって言うか」

 紅華さんじゃないケド、奈央にもあんまりカッコいいトコ、見せれてないよな。
……と思いつつ、オレンジジュースを飲み干した。

「柴芭さんのチーム、負けちゃったね」
「うん。残念だケド、相手の方が強かったんだ」
「でもその相手と、カーくんたち試合するんでしょ?」

「まあね。なるべく頑張るケド、何点取られるコトやら」
「相変わらずネガティブなんだから。もっと気合を入れないと、倒せないでしょ」

「へー、オレらを倒すって言ってるぜ、この姉ちゃん」
 ボクたちの後ろから、声がした。

「わああ、あ、あなた達は!?」
 振り返ると、試合を終えたばかりの三木一草の4人が立っている。

「へへ、チェルノ・ボグスの勇樹ってんだ。可愛いお尻の姉ちゃん」
 勇樹さんの右手が、座っている奈央のお尻に伸びた。

「あ。なんや、テメーは?」
 いきなり勇樹さんが、ボクに向かって凄む。
ボクの手が勝手に、勇樹さんの手首を掴んで止めていた。

「問題行動は、お前の方だ、勇樹。警備員呼ばれて捕まるぞ」
「じょ、冗談だろうが。宝木はいつも、真面目過ぎじゃね」
「ま、オレはお前が、警察に連行されたところで、一向に構わんのだが」

「だから冗談だって言ってるだろ。それにしても、イケメンの兄ちゃん。オレに睨まれても顔色一つ変えないとは、中々に根性座っとるな」
 紅華さんたちに、ハリネズミとか言われてた頭が、ボクの真横に来る。

 うわあ、睨まれて顔が引きつってるだけなのに、なんで何時も勘違いされちゃうんだろ?

「勇樹、全てに置いてお前が悪い」
「っせーな、葛埜季。ヘイヘイ、わーったよ」
 仁王立ちをしている、葛埜季さんの迫力に押されたのか、勇樹さんがヤンキー座りを止めた。

「それにしても……まさか、こんなところで会うとはな、倉崎」
 腕を組んだままの仁王さまが、ボクの背後を睨んでいる。

「それはオレの台詞だぞ、葛埜季。今頃三人とも、全国に向けて戦っている頃だと思っていたが」
 ジャージ姿にサングラスをかけた倉崎さんが、反論しながら近づいて来た。

「嫌味なやっちゃな、倉崎 世叛。スター気取りな格好で、上から目線かよ」
「仕方がない。全国への切符を手に出来ずに敗れたオレたちが、何を言っても言い訳になる」

「全国どころか既にプロで戦っているお前とは、大きく間を開けられてしまったようだな」
「今のところはな。だがお前らだって、プロからの誘いは受けているんだろ」

「フン、何のタイトルも持たず、手ぶらでプロの門を叩くのもシャクだからな。冬に向けての調整も兼ねて、コイツらと手を組んでいる」

「敵の情報収集も兼ねてな」
「まあ、そう言うこった」
 三木一葬は、敵同士でもあった。

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