ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第05章・20話

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歪められた世界

「それにしても、可笑しな話だよな」

「何がですか、おじいちゃん?」
 店を出ると、新たな服に着替えたセノンが、ボクの顔を覗き込んできた。

「人は働かなくても暮らせるのに、わざわざ働きたがる人もいるんだってのがね」
「おじいちゃんの時代は、全員がお金の為に働いていたんですか?」
「う~ん、そう言われると違うな」

「じゃあ今の時代だって、同じじゃないかな」
 真央・ケイトハルト・マッケンジーが言った。
「ただ人生を無作為に過ごすよりも、有意義に過ごしたいって思うモンじゃね?」

「それに今は、人生200年時代。何もしなけりゃヒマ」
「そ、そうなのか。みんな、長生きになったんだなあ」

「千年も生きた人に、言われても……」
 冷めた目で、ボクを見つめるヴァルナ。

「ウウム、それもそうか。殆ど眠っていたとは言え、千年も前に生まれたんだからな」
「おじいちゃん、自覚無いですねえ」
 セノンが言った通り、自覚なんて殆ど無い。

「まあアタシたちが、働かなくても暮せるのは、アーキテクターを始めとしたAIたちが、替わりに働いてくれてるからなんだケドね」
 ドレッドヘアの少女が言った。

「そう……だよな、ハウメア」
 プリズナーの、『AIによって、人間が生かされている世界』と言う言葉が、脳裏を過ぎる。

「考えてみれば、AIたちは人間の奴隷みたいなモノなんだな」

「奴隷……か」
「ん、どうしたんだ」
 ボクの言葉に反応した、ハウメア。

「いや、ウチも先祖を遡れば、ハワイの先住民族の血を引いているらしいんだ」
「ハワイって確か、悪辣で狡猾なアメリカによって、強引に併合されたんだよな」

「そう言えばセノンも、アメリカは酷い国だって言ってたケド?」
「そりゃあ酷い国だろ。ヒトラーの時代のナチスと並んで、悪名が記録されてるぜ」
「ええ、そこまで!?」

「金と軍事力で世界を支配し、人間に対して初めて核兵器を使用した国なんだろ」
「ま、まあそうだケド……国が亡ぶと、ここまで評価が変わるモノなのか」
 真央の言葉に、改めて歴史の恐ろしさを知った。

「逆に聞きたいんですケド、おじいちゃんの目から見たアメリカって、どんな国だったんですか?」
「そ、そうだな。日本が戦争で負けて以来、比較的良好な関係だったと思うよ」
「ウ、ウソだろ。日本って、アメリカの属国だったんじゃ無いのか?」

「そう揶揄するネット民も大勢いたケド、実際は同盟国だ。そこまで酷い関係じゃない」
「核まで撃ち込まれたのに、よくそんな関係でいられたなあ!」
「真央も、日系の血を引いているんだろ。気持ちは解からなくもないが……」

「じゃあなんで、アメリカは悪の枢軸国なんて評価されてるの?」
「それはこっちが聞きたいよ、セノン」
 ……とは言え、可能性は直ぐに思い浮かんだ。

「アメリカが悪である必要が、あった……」
「え?」

「アメリカに替わって、世界を支配した国家にはね」
「正確には、国家じゃない……」
 ヴァルナが、間違いを指摘する。

「そっか。その頃って丁度、旧来の国家による支配体制が崩れた時代だ」
「それからの地球は、巨大企業が人々を支配する時代になる……」

「大規模な経済危機によって、それまでの通貨の価値が暴落し、新たに巨大企業が生み出した電子マネーが世界の経済を支配したんだ」

 三人のオペレーター娘は、勝者によって歪められた歴史を語った。

 その時の巨大企業が更なる成長を遂げ、やがて宇宙に進出して、企業国家として生まれ変わるんだ。

「未来と過去が……繋がった」
 ボクは今、企業国家の小惑星に立っている。

 そして今、未来さえ変わろうとしていた。

「わああ、なんだ!?」
 突然の激しい揺れが、ボクたちを襲う。

「じ、地震か!?」
「何らかの天体かデブリが、ぶつかったんじゃ?」

 このとき、小惑星パトロクロスの周囲を、真っ赤な宇宙戦艦や宇宙空母の群れが取り囲んでいた。

 

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ある意味勇者の魔王征伐~第8章・22話

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王都の激闘5

「白夜丸よ、刻を移ろえ」
 再び雪影の右手の刀が、淡雪のごとくほんのりと輝き出す。

 サタナトスの目の前で、舞い跳ぶイナゴの群れ。
その瞳には、一匹一匹がスローモーションのように、ゆっくりと動いて見えた。

「これは……時間に干渉しているのか?」
「フッ、我が白夜丸の虚ろなる世界で、それだけ動けるとは大したモノだ」
 サタナトスとの間合いを詰める、雪影。

「天酒童 雪影……キミがあの、天下七剣を二振りも持った剣士か?」
「もう一つの刀の力も、拝ませてやろう」
 雪影の左手の剣が、漆黒の瘴気を纏う。

「黒楼丸よ、ヤツを死へと誘え」
「な、なにィ!?」
 漆黒の瘴気は、黒い霧となって辺りを覆った。

 街を覆い尽くしていたイナゴの群れは、炭のようになって崩れ去る。
瘴気は魔王の身体にも纏わりつき、巨大な魔王は咆哮を上げて悶え苦しんでいた。

「敵の動きが、鈍ったぞ」
「アイツの刀は、わたしたちと似た力を持っているのか?」
 元・死霊の王たるネリーニャとルビーニャが、雪影を仰ぎ見る。

 二人の前で、獰猛なる獅子イガリマは地面に這いつくばり、孤高なる鷲シュルシャガナは飛べなくなって墜落した。

「死霊剣べレシュゼ・ポギガルよ。敵を呪い抹殺しろ」
「死霊剣フェブリュゼ・ポギガルよ。敵に猛毒を撃ち込め」
 二人の剣が、獅子と鷲を捉える。

「せっかく命名してやったのに、もう倒されちゃうなんて」
「心配はいらん。キサマも、直ぐに後を追わせてやる」
「どうだかね。ボクの魔王は、まだ終わらない」

 魔王は、身体に纏わりついた瘴気を振り払った。
「ムゥ、我が黒楼丸が呪縛を……」

「魔王ザババ・ギルス・エメテウルサグは、残念ながらボクが生み出した魔王では無いのさ」
 サタナトスは、ラディオの蜃気楼の剣で時空の裂け目を作り、黒い霧を吸わせる。

「なに……では、コイツの正体は一体?」
 地に伏せていた獅子と鷲の身体が消え去り、魔王の手に刀となって握られる。

「古代神。太古の時代、人々に神として崇められていた存在だよ」

「魔王の腕が復活した。しかも、六本に増えてる」
「腕に、獅子の剣と、鷲の剣が握られてますよ、姉さま!」
 呪文の詠唱をしていた双子司祭も、異変に驚きを隠せない。

「これはもう、高位魔法を叩き込むしかないよ、リーフレア!」
「わ、わかりました、姉さま」
 薄いピンク色の髪の、二人の少女の周りに多重魔法陣が展開する。

「準備は完了です、雪影さん」
「そこを、どいてェーーー!!」
 魔法陣は更に、厚く垂れこめた雲にも無数に展開した。

「メタトロニック・メテオフォール」
リーセシルが叫んだ。
 やがて無数の流星群となって、魔王に向け降り注ぐ。

「ア、アレは、流星を滝のように降り注がせる高位魔法。いくら制御されているとは言え、王都への被害は避けられません…」
 それを目撃した神官長、ヨナ・シュロフィール・ジョが懸念を示す。


「我らが弟子は、そこまで愚かではないぞ、ヨナ。ヤツらは、双子だからね」
 魔術師ギルドの主でもある、リュオーネ・スー・ギルの言葉通り、リーフレアの詠唱が完了した。

「アトランティカ・ガーディアンウォール」
 巨大な岩の壁が、魔王を中心とした円形に出現する。


「ありゃあ、物理も魔法も遮断する、絶対防御の障壁じゃねえか」
「それを流星魔法を打ち込んだ魔王自体にかけて、外への被害を阻止すると共に、内部の熱を無限増長させている……」

 驚きを隠せない、獣人の長ラーズモと、騎士団長ジャイロス。

「まったくあのコたちは、どれだけの才能を持っているのでしょう……」
「感動は後ですぞ、ヨナ様。今は、民を安全な場所に導くのが先決」
「そうですね、セルディオス将軍。今は我らができるコトを、精一杯行いましょう」

 その後、セルディオスと五人の元帥に護られた王都の民は、無事に難を逃れるコトとなる。

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キング・オブ・サッカー・第三章・EP004

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弁明の黒狼

「違うって。ゴール地点が決めてなかったから、止まれなかっただけなんだよォ」
 次の日、ボクと黒浪さんはコンビニのフードコートの席に、並んで座ってた。

「まったく、二人して窓ガラスを突き破った挙句、女子更衣室に押し入るとは」
 目の前で雪峰さんが、普段かけている淵の薄い眼鏡を中指で上げながら、怒っている。

「押し入るって、人聞き悪いだろ。故意じゃねえんだからさあ」
 ボクたちは黒浪さんの学校の、女子テニス部と水泳部と新体操部が共同で使っている更衣室に、勢い余って飛び込んでしまったのは事実だ。

「故意で無くとも、過失ではあるだろう。それで、女生徒の裸を覗くなど言語道断」
 その後ボクも、こってりと先生たちに絞られた。

「トホホだぜ。お陰で陸上部は、半年間の活動休止に追い込まれちまうしよォ」
 隣で黒浪さんが、机に突っ伏している。

「元々お前一人の、ボッチ部だったんだろ。最初から活動休止みてーなモンじゃねえか」
「う、うるせー。噛みつくぞ、コラァ!」
 紅華さんの指摘に、牙をむく黒浪さん。

「割れた窓ガラスの修理費は、オレが払っておいた。まあ一馬には、スカウトの仕事をやってもらってるし、黒浪も今回の件は、スカウトが原因と言えば原因だからな」
 離れた席に杜都さんと座ってる、倉崎さんが言った。

「メ、面目ねえ」
 ス、スミマセン!
 ボクも思いっきり、頭を下げた。

「ンでそのドリブル勝負、どっちが勝ったんだ?」
 ドリブラーの性なのか、結果を聞きたがる紅華さん。

「勝負どころじゃ無かったぜ。みんなで寄ってたかって、オレだけボコボコにしやがってよォ!」
「なんで一馬は無事だったんだ?」

「美形で無口だからだろ。オレ普段から、スカートめくったりしてたってのもあるケド」
「因果応報じゃね」
「完全に、因果応報だな……」

「う、うるせーな、お前ら。ああ、オレはこれから、どうすれば……」
「良かったらウチに来ないか、黒浪」
 倉崎さんの、いつもの決まり文句が出た。

「こんなバカ、入れて大丈夫かよ。それにドリブラーは、オレ一人で十分だぜ」
「なんだとォ、ピンク頭。テメーもドリブラーか?」
「おお、そうだぜ。オレだけドリブラーよ」

「そう言うな、紅華。今の時代に限らず、ドリブラーが両翼にいるなんてのはザラだ。サイドハーフにサイドバック、サイドに四枚のドリブラーを揃えているなんてのも、普通だからな」

「まあ解かっちゃいますケド」
「単純にどっちが真のドリブラーなのか、白黒付けたいのだろう?」
「そう、それそれ。解かってるじゃん、雪峰」

「オレさまも、異存はねーぜ。どっかで勝負と行こうか」
「どちらも、単純極まりないな……」
 雪峰さんは、ポツリと呟いた。

「へー、ここでお前と勝負か?」
 いつものように、河川敷の練習場へと移動すると、黒浪さんが言った。

「早速、走ってみようぜ。まずは軽く、ウォーミングアップだ」
 子供のような笑顔で、練習場へと駆け降りていく黒浪さん。

「余程、走るのが好きなのだな。黒浪隊員は」
「お前がミリタリー好きなのと、通じるモノがあるか、杜都?」
「そうですね、指令。自分に、否定はできません」

 黒浪さんは、軽くストレッチを終えると、クラウチングスタートの体制に入った。

「なんだよ。ドリブラーって聞いたのに、完全に陸上部のスタイルじゃんか」
 けれども黒浪さんの足元には、ちゃんとサッカーボールがあった。

「っま、そこで見てな、ピンク頭。オレさま驚異の、スピードをよ」
 『黒狼』は、風のようなドルブルを開始する。

「ム、流石に速いな。黒浪隊員は」
「ああ。しかもあのスピードで、正確にボールをコントロールしている」
「これは裏を取られたら、完全に振り切られてしまうぞ」

 デッドエンド・ボーイズが誇る二人のボランチは、黒浪さんのスピードを分析していた。

「ケッ、なんだよ、あんなの。スピードだけじゃねぇか」
 もう一人のピンク色の髪のドリブラーは、黒浪さんが評価されるのが気に入らないみたい。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第04章・第11話

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天空教室の少女たち

「まず、動画のタイトルは『天空教室の少女たち』」

「うわ、キモ。なにそのキモ過ぎるタイトルは!?」
 社長の説明の初っ端から、あからさまに嫌悪感を顕すユミア。

「そのキモ過ぎる連中が、メインのターゲットになるんだが……」
「何でわたし達が、そんなヤツらの見世物に成らなきゃいけないの!」

「キミをアイドル教師ともてはやしていたファンの多くは、そんな連中だと思うぞ?」
「そ、それは……」

「昔はキミも、アイドルに乗り気と言うか、喜んでやっていたじゃないか」
「う、うっさい!」

「うるさい……と言うのは、否定ではなく肯定の言葉だからね」
 久慈樹社長は、真っ赤な顔のユミアに追い打ちをかける。
「『その通りだケド、そのコトには触れるな』って意味のね」

「確かにそうね。言われてみれば」
 合理主義者のメリーが、納得してしまう。

「まあキミの場合、世叛の前でアイドルごっこをやるのが、楽しかったんだろう?」
「う、うるさい。黙れェ!」
 冷静さを、そぎ落とされているユミア。

「久慈樹社長。もうカメラは回ってるんですよね?」
「ああ、そうさ。ボクとしては、生放送が好みなんだがね」
 どうやら動画は、編集されて公開されるらしい。

「残念ながら今の視聴者は、ガッツリ編集された動画を見慣れてしまってる」

「元は素人だった動画配信者さんたちが、あらゆる分野でテレビ局顔負けの編集された動画をアップしているのですわ」
「お姉さまの仰る通り、素晴らしい時代ですわ」

「おかけで生配信は、動画が視聴者を獲得し定着した後、たまに差し込むくらいだな」
 アロアとメロエは動画の編集を肯定的に感じ、久慈樹社長は否定的に捉えていた。

「そ、それで、肝心の動画内容はどうなのよ?」
 顔色が元に戻りつつあった、ユミアが言った。

「キミらの授業風景を撮る……それだけさ」
「それだけ?」
「まあ解り辛い場所は、編集は入れるだろうがね」

「ですが先生の授業は、学校での授業風景に近いモノがあります」
「そ、そうよね、ライア。今まで散々、学校教育や義務教育を散々否定してきたユークリッドが、そんなコトを始めたら……」

「とてつもない『ヘイト』が集まるだろうね」
 久慈樹社長は、ライアやユミアの懸念を折り込み済みだった。

「アタシも社長の話聞いたとき、ええッ、ユークリッドが教室で授業始めんのォって思ったモン」
「解ってるのか、バカライオン。今度は、アタシらがヘイト集める対象になるんだぞ」
「な、なんだよ、タリア。解ってるって」

「やはりボクの授業の内容にも、制約が入るんでしょうね」
「いや、一切入れるつもりは無い」

「え?」
 意外だった……が、直ぐに答えは導きだされる。

「例えキミの授業が、どれだけ退屈で面白味を欠き、全国の視聴者を眠りへと誘う授業であってもね」
 久慈樹 瑞葉はボクの未熟な授業を使って、あえてヘイトを集めようとしているのだ。

「せ、先生の授業が退屈だなんて、失礼にもホドがあるわ!」
「だから『例え』と、言っているだろう?」

「ですがモノは考えようですわ。ヘイトが集めれば、同時に脚光も浴びると言うコト」
「脚光を浴びるのは、悪いコトばかりではありませんわ」

「アロアとメロエが言った手法は、実際に多くのブロガーや動画編集者たちが使っている手だね」
「炎上狙いのヘイト集めって、ボクはぜんぜん好きになれないよ」
 美貌の双子姉妹の言葉を、ボーイッシュな双子が否定する。

「世の中、綺麗ごとだけではありませんコトよ」
「上にのし上がって行くのに、手段なんて選んでられませんわ」
 二組の双子の意見は、反目しあって収まりがつかない。

「キミたちの人生は、教民法やユークリッドの登場によって、少なからず歪んだ」
 久慈樹社長は、高らかに宣言した。

「この動画で、キミたちが何を表現し、どう変わって行くか……それは、キミたちの自由だ」

 

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一千年間引き篭もり男・第05章・19話

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千年後の未来の買い物

「この街は、今は昼間なんだな」
 ボクたちは、小惑星パトロクロスの内側をくり抜いてできた街を、歩いていた。

「人工太陽が、一日の明るさを調整してますからね」
「ここでの一日って、24時間なのか?」
「はい。宇宙の殆どの場所で、地球での一日が基準となってるんです」

「でも、地球のどこの時間帯に合わせてるんだ。やっぱ、ギリシャか?」
「違うぜ。ここは、アナトリアの時間に合わせてる」
 ボクとセノンの前を歩く、三人の少女の一人が言った。

「そうなのか、真央。でも、どうしてアナトリアなんだ?」
「それは、トロイア戦争に登場する国家、トロイがあった場所とされてるから……」
「二十一世紀だと、トルコ共和国の辺りかな?」

 ヴァルナとハウメアも、コミュニケーションリングで得た情報をボクに伝える。

「今の時代は誰でも、歴史学者顔負けの知識が簡単に手に入るんだな」
「そうですよォ。あらゆる知識に、 アクセスが可能なんです」
「『有識者』なんて言葉が、滑稽に思えるよ」

 でもそれは、二十一世紀の時点で始まっていたのかも知れない。
スマホやインターネットは、有識者という言葉の価値を低下させていた。

「でもでも、マケマケたちの上陸許可が、早めに降りて良かったのです」
「そうだな。セノンだけショッピングが楽しめるのも、ズルいからな」

「だけどこの時代、お金は存在しないんだろ。どうやって買い物をしてるんだ?」
「えっとそうだな。まず衣食住に関わるモノは、全部無料で提供されるぞ」
「そ、それでどうやって、生活し食っていくんだ!?」

「問題はない。アーキテクターたちが、自動で生産してくれる」
「そ、そうなのか。つまり、働く必要すら無いと?」
 それだけ聞くと、未来は夢のような場所に思える。

「でも、店員がいる店もあるぞ」
 ひょっとしてアレも、アーキテクターなのか?

「そうですね。それじゃあお店に、入ってみましょうか」
 セノンは、ブティックのような店へと入っていく。

「すみませーん。この服、貰っていきますね」
「やっぱ、無料なんだな……」
「当たり前じゃん」

「まだ高校生だったから、働いたコト無いケド、親が聞いたら嘆きそうだな」
 セノンと三人娘は、さっさと服を選んで試着室へと向かう。

「光の粒子が輝いて、勝手に服が切り換わる……ってのは無いのな?」
「何ソレ。アニメじゃないんだよ」
「未来の常識が、解からん!」

 一人だけロートル(旧式)な脳みそのボクが、千年もの世代間ギャップに苦しんでいると、四人の少女が試着室から飛び出してきた。

「か、可愛いな、みんな……」
 オペレーターのフォーマルな服から、華やいだカジュアル服を纏った少女たち。
ボクは思わず、本音を吐露した。

「エヘヘ。ありがとです、おじいちゃん」
「まあ褒められるのも、悪くないね」
「真央、照れてる」

「照れてねーし」
「顔を真っ赤にして、言われてもねえ」
「だ、だから違うっての。ヴァルナ、ハウメアァ!」

「皆さん、よくお似合いですよ」
 ブティックの、店員らしき女性が言った。

「あの、貴女は人間……ですよね?」
「え、ええ。最近は、アーキテクターも、人間に見間違えるタイプも居ますからね」
 しまった……気を悪くさせてしまった。

「おじいちゃん。店員さんは、ちゃんと人間ですよ」
「まあアーキテクターが、やってる店もあるケドな」

「でも、今は働く必要は無いんじゃ?」
「ええ。でもわたしは、働きたいんですよ」

「ど、どうして?」
「わたしがデザインした服が、お客さんに喜ばれるのが嬉しいんです」
「お金が……貰えるワケじゃないのに?」

「は、はい。もしかしてアナタは……」
「はい。冷凍睡眠者(コールドスリーパー)です」

「そうでしたか。昔はお金のために、働いていたとは聞いています」
「今は、何のために働くのですか?」
「人それぞれとは思いますが、やり甲斐ではないでしょうか」

 ボクは彼女の言葉に、お金に支配されていない世界の姿を見た。

 

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ある意味勇者の魔王征伐~第8章・21話

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王都の激闘4

 王都ヤホーネスは、歴史ある都である。
北は山岳地帯が盾となり、西から南へと流れる大河は鉄壁の守りと共に、肥沃な土地を与えてくれた。

 5つの小さな都市国家が集まり、それぞれを城壁で結んだ巨大な要塞都市へと発展する。
つまりは城壁の内側に城壁があるという、イビツな構造が生まれてしまった。
無駄な城壁は観光客が迷いやすいとか、商売の妨げになるなど、国民の不満の象徴ともなっていた。

「今もなお、大勢の人間が生き残れているのは、無駄な城壁のお陰と言うのも皮肉なモノだな」
 長年に渡りヤホーネスに仕えた宿将、セルディオスは言った。

「魔物の進入を許し、上がった火の手が街を焼こうとしている現在……」
「無駄と思われた城壁は、防火壁の役割を果たしております」
「進入した魔物も、入り組んだ街並みに迷い、各個撃破され数が減ってやがるぜ」

 老将や王の回りに集った騎士や獣戦士、魔導士たちが、城壁の価値を再認識する。

「元老員の、五大元帥が全員無事とは、何よりのコト」
「フッ、どうだかな。レーマリア皇女に王権を継がせるならば、我らが死んでくれた方が好都合だったであろう?」

 ヤホーネスは、その国の成り立ちから、5つの都市国家の合議制で王が決まっていた。

「今は、権力をどうこう言っている時ではありません。わたくしの配下の神官たちも、大勢がエキドゥ・トーオの王宮と共に、命を落としました」
「それはこっちも同じだぜ。大勢の獣人たちが、炎に焼かれて死んじまった」

 規律を重んじる、騎士国家の代表である『ジャイロス・マーテス』
王宮魔導所を統括する神聖国家の代表、『ヨナ・シュロフィール・ジョ』
河べりに栄えた獣人の国家代表、『ラーズモ・ソブリージオ』

 五大元帥の中の、三人が言った。

「今はこの場を切り抜け、城外へと民を避難させるのが先決かと」
「老将の言われる通りだが、よもや死した王や兵士たちと共に、戦うとは思いませんでしたぞ」
「ま、それで国民の命が救われるんなら、王や兵士たちだって本望でしょうよ」

 武士道を重んじる、東国より落ちた伸びた侍や忍びたちの国家代表、『カジス・キームス』
魔導師ギルドを中心に発展した魔導国家の代表、『リュオーネ・スー・ギル』

 彼らは南側の城門に民を誘導し、王都脱出を図る作戦を実行に移した。

 ~その頃~

 白紫色の髪の剣士は、王城の瓦礫に降臨する魔王に立ち向かっていた。

「古の魔王よ。そのクビ……貰った」
 雪影は、白の刀身と黒の刀身の二振りを抜き、魔王のクビ元目掛けて跳ぶ。

「ヤレヤレ、甘いねえ。そんな攻撃じゃ、ボクの魔王は倒せないよ」
 攻撃の最中に聞こえた言葉に、雪影は一瞬身を引く。
すると魔王の前に、謎の黄色い壁が出現した。

「な、なんだ……蝗(イナゴ)の群れか!?」
「そうだよ。魔王・『ザババ・ギルス・エメテウルサグ』は、全ての作物を喰い散らかす、イナゴの群れを支配するのさ」

 サタナトスの言った通り、イナゴは黄色い霧となって街へと押し寄せる。
ネリーニャとルビーニャが蘇らせた、アンデットの軍団も魔物の餌食となった。
脱出が間に合わなかった人間さえも、生きたまま八つ裂きにされ喰われる。

「フフフ、素晴らしい光景だろう」
「キサマが、サタナトス……」

「人間が、小さな羽虫に食べられてるよ。まあ、言うほど小さくは無いケドね」
 イナゴは大きい物では、1メートルを越える個体までいた。

「キサマ、一体何が目的だ」
「目的か、そうだねえ。この世の破壊かな?」
 無邪気に笑う、金髪の天使。

「この世界は、キサマのオモチャでは無い!」
「ククク。そんなコトは、ボクの魔王を倒してからほざくんだね」

「ならば、そうさせて貰おうか」
「何を無謀な。赤毛の英雄でも無いキミ一人に、魔王が倒せると……ッ!?」
 サタナトスは悪寒を感じ、言葉を詰まらせる。

「この天酒童 雪影。シャロリュークを倒せぬと思ったコトなど、一度も無い!」
 剣士は真っ白なオーラと、禍々しい邪気の二つを纏っていた。

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キング・オブ・サッカー・第三章・EP003

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神風

 ボクはそのままドルブルを続け、ゴールを目指す。

 もしかしたら黒浪さんは、チャイムでスタートの合図が聞こえなかった可能性はある。
でも、一瞬だけスタートが遅れただけで、後ろから追って来てる可能性もあったからだ。

「ま、ハンデとしちゃあ、いい距離だ」
 日焼けしたアスリートが、クラウチングスタートの体制のまま言った。
もちろんボクには、聞こえるハズも無い。

「黒狼が獲物を狩る恐ろしさを、見せてやるぜ!」
 黒浪 景季は、ボクが20メートルくらい進んだところでスタートを切る。

「ガアアアアァァーーーーーーーーーーーーオッ!!」
 後ろから、獣の雄叫びが聞こえた気がした。

 ……なんかヤバい。
とんでも無い圧力が、迫ってくる。
だけど後ろを振り返って、確認する余裕なんてなかった。

「どうだ。追いついてやったぜ!」
 60メートルくらい進んだ頃だろうか。
黒浪さんが、ついにボクの隣に並んだ。

「流石に驚いただだろ。クールな顔が、引きつってんぞ」
 人見知りなだけなんだケド、そんなコトはまあいっか。

 黒浪さん、ドリブルもちゃんと上手いし、高速なのに乱れてない。
茶褐色のハデなジャージの背中が、どんどん遠くなっていく。
このままじゃ、負けちゃう!

 でも……どうなのかな?
黒浪さんが入らなきゃ、ボクがレギュラーって可能性も……。

『ああ。歓迎するよ、一馬。お前がオレのチームの、最初のメンバーだ!』
 倉崎さんと最初に勝負をしたとき、言われた言葉。
どうしてこんな時に、思い出しちゃうのかな?

「へへ、もう終わりかよ。歯ごたえが無いぜ」

 やっぱ、負けたくない。
他のコトでならともくかく、サッカーで負けるのって悔しい。
でも、もうどうにも……その時だった。

「うおッ!?」
 強烈な一陣の風が、グランドに吹き荒れる。

「きゃああッ」「いやぁん」
「チョットなによ。この風ェ」
 風が、練習を終えたテニス部のスカートを、舞い上がらせる。

「ラッキー、パンツ丸る見え……って、ミスったぁ!?」
 黒浪さんのドリブルが乱れ、明らかにスピードが落ちた。

 今がチャンスだ!
ボクは、最後の力を振り絞って、黒浪さんに迫る。

「マ、マジィ、追いつかれちまう!」
 横道にそれた黒浪さんも慌てて復帰したが、隣に並ぶコトは出来た。

「も、もう一回、引き離してやるぜ!」
 けれども更にギアを上げ、加速する黒浪さん。
走ってみて解る、理不尽なまでのスピードだ。

「やん、風でタオルがぁ」
「スゲエ、水着が!」
 部室に入ろうとしていた水泳部のバスタオルが、空に飛ばされる。

「うわッ、ジャージが飛んでっちゃう」
「うおあ、またかよォ!」
 新体操部が羽織ったジャージが、天高く舞い上がった。

 風が吹くたびにドリブルが乱れる、黒浪さん。

 これって、神風ってヤツ?
春先の名古屋は、たまにやたらと強い風が吹く日が、あるんだよな。

「ヤッべ、また抜かれちまった!?」
 必死に追ってくる、黒浪さん。

 こんなチャンス、二度と無い。
……と言うか、次やったら普通に負ける!


「待て、待ちやがれェ!」
「待てるワケがない。ゴールはもう直ぐ……」
 ここでやっと、ボクは重大な問題点に気付いた。

 アレ、ゴールってどこだ?
部室棟の前までって言ってたケド、アバウト過ぎないか。
けれども、スピードを緩めるワケには行かなかった。

「ガアアアアァァァァーーーーーーーーーーオ!!」
 背後から、黒きオオカミが迫って来る。

 息は荒ぶり、視界すら狭まるくらいに必死に走った。
それは黒浪さんも同じだったようで、部室棟が目の前にあってもスピードが落ちない。

 マ、マズイ……このままじゃ、壁に……。
ボクたちは、同時に跳んだ。

『パリイイィィィィーーーーーーーンッ』

「きゃああああーーーーッ!?」
「うわ、うわ、なんなのォ!?」
「ぎゃああ、だ、男子がぁ!?」

 窓ガラスの割れた部室棟は、テニス部や新体操部、水泳部の悲鳴に包まれた。

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