ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

萌え茶道部の文貴くん。第六章・第十二話

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電気ウナギのボルタくん

 双子が渡辺と絹絵を探しに出ると、学校から少し離れた場所で一台のトラックが事故を起こしていた。

「み、見てフウ!? トラックが歩道に乗り上げてるよ!?」
「ま、まさか!? 絹絵か、渡辺先輩が巻き込まれたんじゃ……!?」
 交通事故の恐怖を知っている双子は、恐る恐る事故現場の方に近寄る。

 二人が近づくと、トラックの運転手とおぼしき人物が、警察の事情聴取を受けていた。

「はあ……ですから確かに男の学生さんが、その電柱の下敷きに……」
「だけどねえ。何も見当たらないよ? 学生どころか、血の跡すら無いじゃない?」
 警察官は運転手の言葉に、疑念を抱いている。

「何かの事故みたいだケド……」「人身じゃ無いみたい?」
 とりあえず安心した姉妹は、事故現場とそれを取り巻く野次馬を避けて歩道を迂回した。

「……ん? あれ、何かなホノ」「あ! 何か光ってる! 行ってみよう!」
 二人は何かキラキラ光る物が、地面に散らばっているのに気付いた。
欠片は翡翠色で、周りには血が滲んでいる。

「こ……これ、絹絵の抹茶茶碗だよ!?」
「割れちゃってる……それに血も着いてるよ、フウ!?」
 不安げに互いに顔を見た双子は、破片を出来る限り拾い集める。

「絹絵に何かあったのかなあ?」「無事だといいんだケド……」
 よどんだ空からは、ポツポツと雨が降り出していた。

「では、お次は……流石にも~無いアル!? 即興で作れる料理にも、限界があるアル~!」

「……い、以上、『チャイナ服少女・復権友の会』の皆様でした~!」
 醍醐寺 沙耶歌も、事情を聞かされ焦っていた。

 (今回の件は、元はと言えば『醍醐寺の家のゴタゴタ』が事の発端だもの。このまま茶道部が……渡辺くんが間に合わなかったら、わたし……)
 少女が責任を感じてるのを読み取ったフィアンセが、その肩に手を置いた。

「だいじょ~ぶ、心配ね~って。渡辺は、やるときゃやるヤツだ! アイツはシルキーを連れて、ゼッテー戻って来る」
「そ、そうね、蒔雄!」

 橋元のお気楽さに、副会長は勇気を取り戻した。
「さあ、次は『電気ウナギ発電・エコの会』の皆様の登場です!」
今まで、何度もそうだった様に……。

 壇上には、部長の鯰尾 阿曇ら五人の少女たちが、『垂れ幕のかかった巨大な長方形の何か』と共に現れた。
「……みなの集。我が電気ウナギ発電・エコの会の、本日の主役の登場じゃ!」

 少女達が垂れ幕を剥すと、大きな水槽の中に一匹の巨大ウナギが現れた。
「電気ウナギのボルタくんなのじゃ~!」
 それを見た会場から、どよめきが起こる。

「南米はアマゾン原産での。ウナギと言ってはおるが、種族としてはかなり別物じゃ」
 ウナギの入った水槽からは何本ものコードが伸びており、変電器らしき装置を経由して、一本のポールに繋がっていた。

「電気ウナギは、筋肉細胞を直列に繋いで発電する仕組みでの。現地アマゾンでは、餌となる魚だけでなく、人間や馬まで感電させる場合もあるのじゃ。最大発電量は、なんと驚きの、800ボルトと言われておる」

 鯰尾 阿曇がスイッチを入れると、回路が繋がったのかポールの先の金属ドーナツの様な物体から、電光がバチバチと放たれる。
「おわッ! 空中に電気が走ってる?」「スゲェ、SF映画みたい!」

「これは、テスラコイルと言ってのォ。残念ながらあまりエコとは言えんが、現在ボルタくんがどれだけ発電してるかを、わかり易く見せるための装置じゃ」
(……渡辺よ、何をしておるのじゃ? 早よう来い! それまではワシ等が……)

鯰尾 阿曇が見上げた体育館の窓の向こうの空からは、雨がシトシトと降り始めていた。

 

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この世界から先生は要らなくなりました。   第02章・第18話

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八木沼 芽理依

 新兎 礼唖は、それ以上は反論しなかった。
かと言って、ボクの意見に完全に納得したワケじゃ、無さそうではあるが。

「キミたちは全員、高校二年だったな。それじゃあ授業を始める。まずは、高校二年の数学からだ」

 ボクは、白板やデジタルディスプレイを使って、授業を始める。
教科書と呼べるモノは、すでに多くが廃刊となってしまっていた。
理由はすぐに明白になる。

「あの~先生、アタシ数学、高校一年どころか中学くらいから解りません!」
 レノンが、威風堂々と手を挙げた。

「わ、わたしも、高一くらいから自信……ないかな?」
 モコモコ髪のアリスも、チョコンと手を挙げる。

 すると八木沼 芽理依が、二人を見下すように言った。
「わたしは高校三年の数学もほぼ、終えています。今さら高校二年の数学を勉強する気には、なりません。この場合、どうしたらよろしいのでしょうか?」

 これが、かつての学校教育における、大きな問題点だった。
ユークリッドの動画であれば、各自自分に合った動画を見るコトで問題は無く、学年も教科もバラバラの教育を、一つの教室で行えるのだ。

「もう一度、高校二年の数学を、基礎から学ぶ気にはならないか、メリー」
「ぷっ、メリーだって。羊みたいな名前だな」
 レノンが自分たちがバカにされた、腹いせに出る。

「お黙りなさい、バカライオン。体だけ大きく育って、頭の中は空っぽなアナタに、どうしてこのわたしが合わせなければならないのでしょう? おかしいとは思われませんか、先生?」
 メリーは教壇に立つボクに、鋭い視線を送りつけた。

「バカで悪かったな。でも胸の方にはぜんぜん、栄養が行ってないみたいじゃんか?」
「う、うるさい! 胸などそのウチ、大きくなります!!」
「あれェ? うるさいってのは、否定じゃなくて肯定だったよな、ライア?」

 レノンに同意を求められても、ライアは何も答えなかった。
新兎 礼唖は、正義を重んじる少女であり、時には独善となってしまっても、彼女には正義に対する規律と誇りがあるように思う。

「チェ、なんだよ。無視かよ?」
 椅子の上で、悪態をつくレノン。

「メリーは、十二月二十四日生まれだったよな? メリー・クリスマスでメリーなのか?」
 ボクは話題を変えようと、八木沼 芽理依の名前の謎について、本人に質問をぶつけた。

「それがどうしたと言うのです。先生には関係がないコトですよね?」
 アイボリー色のショートヘアの少女は、眉間にしわを寄せる。
「クリスマスなんて……」

「どうかしたのか、メリー?」
 ボクは、急に険しい表情となった彼女が気になった。

「あ、わかった! クリスマスと誕生日のプレゼントを一緒くたんにされて、ひねくれてんだ!」
「ア、アナタと頭のレベルを、同じにしないでください。キリスト教徒でもない日本人が、クリスマスを祝うなど愚かだと思っているだけです」

 メリーはそう言ったが、ボクにはそれが本心とは思えなかった。
「それじゃあメリー。キミに、頼みがあるんだ」

「なんでしょうか? わたしに先生の頼みを聞かなければならない、道理はありません」
「そう言うなよ。実はメリーには、レノンとアリスに数学の勉強を教えて欲しいと思ってるんだ」
 ボクが言ったとたん、メリーの表情が激しく変化する。

「どうして生徒であるわたしが、二人の落ちこぼれの面倒を見なければならないのです? わたしの貴重な時間を、割く価値がある行為には思えません!」
「そうかな?」「そうです!」顔を背けるメリー。

「アタシだってやだよ。こんなムカつくヤツに、どうして教えて貰わなきゃならないんだ?」
「それはメリーが、教えるのが上手いと思ったからだよ、レノン」
「はえ? どうしてそんなコトが解るのさ、先生!?」

「それについては、そのバカライオンと同意見です。意味が解りませんわ!」
 八木沼 芽理依は、相変わらずボクを鋭い視線で睨みつけていた。

 

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一千年間引き篭もり男・第03章・20話

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艦橋スタッフ

 ボクは、自ら『MVSクロノ・カイロス』と名付けた、宇宙船の艦長となった。

「艦長のボクには、この艦のスタッフを任命する権利があるんだよね?」
『はい。現行のスタッフは、サポートスタッフであるわたし……ノルニールと、艦長の遺伝上の娘たち六十名になります。彼女たちは、戦闘スタッフですね』

「そうだよ、戦闘なら任せて!」「どんな敵だって、へっちゃらだよ!」
「パパに立てつくヤツはやっつけちゃうんだから!」「安心してね」
 娘たちは相変わらず無邪気に、ボクに纏わりつく。

「そう言えばノルニールは、ベルダンディの姿以外にもなれるんだろ?」
『わたしは、見た者が見たい様に見える存在。いかなる姿であろうと、なることは可能でしょう。今は、艦長の付けた名前に従い、ノルニル三女神の一人である、ベルダンディの姿でいるのです』

「それじゃあスタッフなんだケド、セノンや真央たちも可能なのか?」
『彼女たちは、コミュニケーション・リングによって記憶を操作できます。可能でしょう』
「どうやら未来に置ける人権は、二十一世紀とはかなり異なるんだな?」

『いいえ。多くの企業や国家では、人の記憶を勝手に書き換えるコトは、認められてはおりません』
「オイオイ!? だったらキミらがやってるコトは、法律に反するコトじゃないのか?」
『この艦は、どの企業にも、どの国家にも所属いたしません』

「まるで、海賊船みたいな言い草だな。だったら、この艦の法はどうなってるんだ?」
『以前にも申し上げた通り、艦長がこの艦の法です。殺生与奪の権利も、全て艦長に一任されます』
 フォログラムのベルは、とんでもない常識の持ち主だった。

「誰かを殺す気なんて無いよ。とりあえずオペレーターとして、セノン、真央、ヴァルナ、ハウメアの四人を招集したいんだケド?」
 ボクは、ベルダンディの反応を探った。

『了解いたしました、艦長。世音・エレノーリア・エストゥード、真央=ケイトハルト・マッケンジー、ヴァルナ・アパーム・ナパート、ハウメア・カナロアアクアの四名を、艦のオペレーターとして登用いたします』

「それから、艦内の警備スタッフとして、プリズナーとトゥランを採用したいんだが?」
 ボクは、一か八か二人の名前を出す。

『艦長。プリズナーに関しては、本名ではございません。特殊なコミュニケーション・リングの形状を見るに、刑務所に服役している人物のようですが?』
 やはりベルは、プリズナーのコトも把握していた。

「そうか。だが問題ない。すぐにブリッジに呼んでくれ」
『了解です。艦長』
 ベルが了承をしてから五分後には、全員が艦橋に顔を揃えていた。

「おじいちゃん。オペレータースタッフ全員、揃いました」
 少しは引き締まった表情のセノンが、言った。

『おじいちゃんでは、ありません。この艦・MVSクロノ・カイロスの艦長です』
「いや、いいんだ。セノンから艦長って呼ばれるのも、何か違うかなって」
『そうですか、了解いたしました』

「おい、お前。こりゃ一体、どうなってやがる!?」
 プリズナーが、ボクを睨んだ。

「成り行きでね。この艦……MVSクロノ・カイロスの艦長を引き受けるコトになった」
「なんだ、そりゃ? だが艦長ってんならさっさと、オレやクーヴァルヴァリアを、フォボスに返せってんだ!」

『私語を慎みなさい、プリズナー。あなたには発言も要望も、認めてはおりません』
「なんだぁ、この女は!?」
 ケンカ腰のプリズナーは、拳を身構える。

「プリズナー、相手はフォログラムです。物理攻撃など無意味ですよ」
 プリズナーの背後に控えていた、トゥランが言った。
アーキテクターである彼女は、ブリッジでは本来の機械の体に戻っている。

「なにィ!? まったく、ワケが解らんぜ!」
 拳を納めるプリズナー。

「ヤレヤレ……巨大宇宙船に、個性的なスタッフ。これでボクに、何をしろって言うんだ?」
 ボクは目の前に広がる、深淵の宇宙に向かって投げかけた。

 

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ある意味勇者の魔王征伐~第6章・7話

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サタナトス・ハーデンブラッド

 二人は喧嘩をしながらも、街外れの荒野を流れる川の畔にたどり着いた。

「随分と遠くまで来ちゃったね。でも、五時くらいには戻ってやらないとな~。屋台の片付けもあるし……」
「それは良いが、あの八つ子にコッテリと絞られることは、覚悟して置いた方がよかろう?」

「はあ、今はそれを言うなよ。せっかく、労働から解放されたんだしさ」
「フム、それもそうじゃな」
 舞人とルーシェリアは、初夏の日差しを受けきらめく川縁へと歩き出す。

「……おや。アレはなんじゃ?」
 不意にを突くように切り出した、少女の指差す方向を少年も確認した。

「人だ。誰か倒れてる!?」
 そこには、小さな川のせせらぎに半身を浸けた状態で、人間がうつ伏せに倒れている。

「も、もしかして、モンスターに襲われたとか!? 行ってみよう!」
「まったく、どうして都合悪く、河に人など倒れておるのじゃ!?」
 二人は急いで、倒れている人物の傍に駆け寄った。

「こッ……この人!? ……そんな……まさか!?」
 驚愕の表情を浮かべる少年。

「なんじゃ、この者を知っておるのかぇ……ご主人サマよ?」
 只ならぬ雰囲気を察したルーシェリアは、舞人に質問をぶつける。

「ああ、この人を知らない人は、恐らくヤホーネスには居ないよ……」
「で、では、この者は……まさか!?」
 舞人の言い回しに、ルーシェリアも男の正体に気付いた。

「そう……『シャロリューク・シュタインベルグ』さん。『赤毛の英雄』さ!」
 今まさに二人の目の前に、『血だらけの英雄』が横たわっていたのだ。

「大丈夫ですか……何があったんです!? シャロリュークさん!?」
 少年は、必死に呼びかけたが返事は無かった。

「……じゃが、息はある様じゃな。さっさと運んで、手当てをする他あるまい?」
 赤毛の英雄は、川辺が赤く染まるほどの血を流していたが、微かに呼吸はしている。

「そうだね。ボクは街に帰って、リーセシルさん達を呼んで来るよ! それから荷馬車も用意して戻るから、ルーシェリアはここで待って……て!?」
 そう言いかけた少年は、急に只ならぬ気配を感じて空を見上げた。

「な、なんだ? この異様な感じは!?」
「……ご主人サマも気付いたか? これは、只ならぬ気配じゃ!!」
 すると時空が歪んで空が渦を巻き、暗黒の空間が出現する。

「『シャロリューク・シュタインベルグ』……ソイツを、運ばれちゃあ困るなあ?」
 恐ろしく綺麗で……けれども、とても冷たい感じのする声が響き渡る。

「せっかくボクがやっとの思いで、時空の狭間から見つけ出したって言うのにさ」
 『暗黒の空間』から、声の主であろう一人の少年が現れた。
 少年は黄金色の髪を風に靡かせ、透き通ったシルクのように滑らかで美しい肌をしている。

「誰だお前は! まさか……お前がシャロリュークさんを、こんな目に遭わせたのかッ!?」
 舞人は、『金髪の少年』に向って叫んだ。

「……だったら何だってんだい? キミには係わりの無いコトだろう?」
 少年は、涼しげなヘイゼルの瞳で舞人たちを見下す。
「それに、ボクの『実験』はまだ終っちゃいないんだ。ただの人間風情が、邪魔するんじゃ無いよ」

「実験? 一体、何のコトだ!?」
「キミが知ったところで、どうせ死んじゃうんだ。聞いても無駄と思わない?」
 少年は、天使の様な顔で微笑んだ。

「そうだなあ……どうしよっかな~?」
 少年は、舞人とルーシェリアを観察しながら思案する。

「特別に、ボクの名前を教えちゃおっかなあ? どうせキミたち二人とも死ぬんだし」
 少年は、子供が蟻を潰すように、無邪気に言った。

「ボクの名は、『サタナトス・ハーデンブラッド』だ。冥土の土産に覚えておきなよ」

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萌え茶道部の文貴くん。第六章・第十一話

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千乃 美夜美(みやび)

 渡辺は、木漏れ日の中で目を覚ました。

「……アレ……ここは?」
 まだ目もよく見えず、視界もボンヤリしている。

「ど……どうしてボクは……? ボクは……生きているのか……それとも……」
 交通事故に遭って、倒れて来た電柱の下敷きとなった記憶が蘇る。
体はまだ自由に動かないが、顔は何とか動かせた。

「アレ……なんか、枕が妙に……柔らかくて温かいな? それに何だか……優しい匂いがする……」
 渡辺は後頭部に感じる、柔らかな感覚に気を留めた。

「……ふふ。フーミンは、相変わらず甘えん坊さんだね?」
 聞き覚えのある声に渡辺は、霞む目を大きく見開く。

「……美夜美……先……パイ?」
 段々と、ぼやけた視界がはっきりして来ると、なつかしい少女の姿が浮かんだ。

「ごめんなさい。あなたを、こんな危険な目に遭わせてしまって……」
 けれども少女は、浮かない顔をしている。

「……先パイ……なんですか!? ホントに……千乃 美夜美……先パイ?」
 少女は膝に乗せている渡辺の鼻筋を、人差し指で悪戯っぽく撫でる。

「そうよ……久しぶりだね。一年ぶり、くらいかしら?」 
 憧れの先パイは、懐かしい笑顔で笑った。

「……ボクは、死んだんですか? ここは……天国?」
「どう見えるかしら、フーミン?」
「そうだな、少なくとも地獄には……見えない」

「アハハハ……♪ 大丈夫だよ~フーミンは生きてる!」
 千乃 美夜美は、ホワホワした笑顔で笑った。
「だってわたしが、助けたんだモン♪」

「先輩が……オレを? ……先輩は一体……?」
 渡辺は、絹絵や千乃 玉忌の異変から、何となく気付いていた。
(先輩に化けた『千乃 玉忌』……苗字の一致……もしかして先輩は……?)

「仕方ない……正体をバラしますか?」
 千乃 美夜美は、遠くの空を見上げる。

「そのままでいいからフーミン、『わたしのお尻の辺り』を触ってみて?」
 憧れの先パイは、いきなりとんでも無いコトを言い出した。
「……へ? お尻……? エエエエェェェェェーーーーーーーッ!!?」

「だから……お尻じゃなくて、お尻の辺り! もう、エッチッ!」
 先パイは、顔を真っ赤にした。

「……で、では、遠慮無く……」
 渡辺は膝枕をされたまま、千乃 美夜美の『お尻の辺り』に手を伸ばす。

「え? モフモフしてる? こ、これって……やっぱりシッポ!?」
 渡辺の手は、先輩のお尻に行き着く前に、モフモフしたシッポに触れていた。

「実はわたしは、キツネッ娘でしたコン♪ ……なんちゃって」
 少女は、はにかんだ笑顔で答える。

「なんですか、それ……カワイイから許されるレベルですよ、先パイ」
 渡辺は、上半身を起こした。
そんな彼の、メガネの向こう側から、熱い涙がこぼれ落ちる。

「やっと……やっと遭えた……美夜美……先パイ!?」
 渡辺は、千乃 美夜美の前で泣いた。

「フーミン、まだ茶道部を続けてくれていたんだね?」
「だって、あんなままじゃ、終われないでしょう? それに今は、大変なコトになってるんです」
 渡辺は、今までの経緯を千乃 美夜美に説明しようとする。

「大丈夫よ。フーミンがやろうとしてるコトは、わかってる」
千乃 美夜美は立ち上がった。
「わたしも、お母さまとの決着を、付けなきゃならない時みたい」

「それってやっぱり……『千乃 玉忌』のコトですか?」
 渡辺 文貴は、頭に尖った耳を生やし、お尻にフワフワのシッポを生やした先パイの背中に向かって聞く。

「ええ……そうよ」
 千乃 美夜美は、僅かに頷いた。

 

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一千年間引き篭もり男・第03章・19話

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MVSクロノ・カイロス

「どんなに人類があがいても、太陽系ですら人類の生息域を超えて、遥かに広いのか?」

『現在、人類は太陽の周りを周る地球の周回軌道上に、コロニー群を建設し始めています。また、アステロイド・ベルト(メイン・ベルト)にも、資源採掘から財を成した企業群が複数存在します』

「企業群……か。まだ、国家にまでは成長してないんだな?」
『恐らくそれは、二十一世紀の価値観なのでしょう。今の時代では、国家という単位はほぼ消滅してしまい、巨大な企業たちが太陽系を支配しているのです』

「そうなのか!? それじゃあ、日本やアメリカ、中国もロシアも、滅びた理由は!?」
『はい。巨大企業によって、徐々に消滅していったのです』
「だけど企業ってのは、国家の中で存在し得るモノじゃないのか!?」

『いいえ。二十一世紀でも国家を上回る影響力を持った企業は、存在したと思いますが?』
「た、確かにそうだケド……いくら巨大企業でも、どうやって企業が国家を支配したんだ!? 企業は、その国の法律の制約を受けるだろうに!?」

『国家の威光が、著しく損なわれる事象が頻発したと言えば、お解りになりますか?』
「戦争に敗れた……って、コトか?」『残念ですが、違います』
 ボクは一日が僅か十時間のガス惑星を、あおぎ観ながら考える。

「それじゃあ、大不況とか? 通貨や株価、土地……あやゆる価値が下がるからな」 
『正解です。世界規模の超大型通貨危機に、巨大国家の指導者の交代……国家のあらゆる弱みに付け込んで、巨大企業たちは自らの生み出した電子マネーを流通させました』

「巨大国家の指導者が交代するタイミング……つまり、野党側にロビー活動を行って、自分たちの通貨を承認させたのか?」
『はい。野党は巨大企業群から、資金を得ていましたからね。それに……』

「通貨危機で貨幣の価値が暴落しているところに、自分たちの電子マネーを流通させたんだな?」
 ボクたちは、宇宙船の先端に向かっていた。
六十人の娘たちも、ゾロゾロと周りを歩いている。

『超大規模の通貨危機は、巨大国家のマネーゲームが引き起こしたモノでした。当時の人々は、国や為政者、巨大金融企業に疑問を抱いていたのです』

「でも……自分の国の貨幣価値が失われた国家に、どれ程の価値があるんだ? 貨幣の価値を国家が保証しているからこそ、国は成り立つんだろう?」
『実際、その通りになりました。それ以降、国家は急速に衰退していくのです』

「やがて国家の影響力は薄れ、世界を巨大企業が支配するようになった……ってところか?」
『はい。とくに人類が、宇宙に拠点を築きはじめてからは、国家という単位は急激に意味を無くすのです。今は殆どの地域を、企業が支配していますから』

 ボクは、資本主義の行き着く未来を見た気がした。

「ねえ、パパ」「この先が、展望室だよ」
 娘たちが、展望室への扉に向かってボクの背中を押す。

「これが……木星圏の姿か? 思ったより、何も無いな」
 展望室の巨大なスクリーンに映っていたのは、未来に来てからは見慣れていた、ただの星空だった。

『この宇宙の中を、何万隻の水素、ヘリウム、メタンの巨大輸送船が、行き来しているのです』
 ベルが言った。
よく見ると、地球で見るより遥かに小さな太陽が輝いている。

「人類の進歩ってのは……それでも偉大なモノなのか?」
 ボクはポツリと呟く。

 その後、ボクたちはエレベーターを昇り、宇宙船の上側からブリッジへと戻った。
途中の眼下には、巨大な二十一世紀の街が眠りに就いていた。

『艦長……この艦の名前は、お決まりになりましたか?』
 ベルが言った。

「ああ……『MVSクロノ・カイロス』だ」
 それは古代ギリシャに置いて、『時』や『刻』を表す言葉だった。

 

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ある意味勇者の魔王征伐~第6章・6話

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商売の基本

「しっかし、アレじゃのう。富の魔王だけあって、金を稼ぐ能力がハンパ無いのォ?」

 魔王であった頃の主でもある、ルーシェリアも関心する。
「確かにな。景品やポイントカードのアイデアも、凄いよ」
「それにキャンペンガールも……ね」

 パレアナが視線を送った先には、ネリーニャとルビーニャの双子姉妹が、ウサ耳カチューシャにバニー服の格好で、看板を持って客の呼び込みをやっていた。

「なんで、我らがこのようなはしたない格好で……!?」
「屈辱的! 覚えておれ……八つ子のアホども!!」
 無愛想な二人ではあったが、客の寄り付きは悪くない。

「そこ、チャキチャキ働くモン!」「お客さんが逃げちゃうモン!」
「働かざる者、喰うべからずモン!」「サボってたら、ご飯あげないモン?」

「それにお客さんの前では笑顔でモン!」「接客は満面の笑顔が一番モン!」
「もっと色っぽく振る舞うモン!」「って言っても、無理かモン?」

「おのれ……!?」「言わせておけば!?」
「おッ、なんか可愛いコが呼び込みやってんなあ?」
 お客から声がかかったので、仕方なく双子は引きつった笑顔を見せる。

「……そんじゃちょいと、ナイフの一つでも買ってってやるかな!」
「へー、ネリーニャちゃんに、ルビーニャちゃんっていうのか?」
「オレ、この斧貰うよ」「じゃあオレは、こっちの弓だ」

 客の予想外の反応に、ネリーニャとルビーニャは顔を見合わせた。
「なんか……意外と商売も面白い気もする?」
「と、当然少しだけだが……な」

 商売は大いに賑わい、昼を過ぎた頃には在庫を切らした商品が出始めた。
「ねえ、舞人。もう商品が無いよ!」
「マジで? それじゃあそろそろ、店じまいを……」

「これはマズイモン!」「ご主人サマのご主人サマ。買い付けに走るモン!」
「ええ、まだ売るの!?」「売れそ~なときに売るモン」「さっさと行くモン!」
 舞人は昼ご飯を食べる間も無く、隣町まで武器の買い付けに走らされる。

「な……なんでボクが、こんな目に!? アイツら、ルーシェリアのコトは尊敬してるみたいだケド、ボクのコトは召使いくらいにしか思ってないんじゃないのか!?」

 文句を言いながらも、レンタルした荷馬車を走らせる舞人。
なんとか買い付けた武器を荷馬車に載せ、ニャ・ヤーゴへ帰ったときには三時を過ぎていた。

「もう、何やってるモン!」「遅すぎモン!」「せっかくの商機が台無しモン!」
「それに、高く買い過ぎモン!」「向こうの言い値で買って、どうするモン!」
「もっと値切って安く仕入れるモン!」「商売の基本モン!」「困ったもんモン!」

 苦労して買い付けに行った挙げ句、幼い外見の八つ子にこっ酷く叱られる少年。
「……とんだブラック企業だよ、全く!?」

「そこの主が、なに言ってるモン?」「でも、とりあえず商品は補充されたモン!」
「食べ物の屋台に人が流れる夕暮れまでが勝負モン!」
「さあ、ご主人サマのご主人サマも、まだまだ仕事がモン?」「アレ……いないモン?」

 舞人はルーシェリアを連れて、街の外へ逃走を計っていた。
「ヤレヤレ、参ったよ……アイツら商売のこととなると、悪魔みたいに……厳しいんだから」
「まあ……ついこの間まで……『悪魔』じゃったからのォ」

 二人はかなりの距離を走ったので、息が上がっていた。
それが落ち着くと、自分の右手がルーシェリアのか細い左手を強く握っていることに気付く。

「アッ……ごめん! 痛かったか、ルーシェリア?」
「い……いや、別に……なのじゃ!?」
 不意に謝罪をされた少女は、顔を赤らめて俯いた。

「フ、フンッ! 妾は魔王なのじゃぞ。これくらい、なんとも無いわ!」
 漆黒の髪の少女は、その場を誤魔化す為に怒った振りをする。

「そっか? ならいいケド」
 舞人は、そんな彼女の心境に気付くこと無く歩を進めた。

「……!?」
 うしろを歩くルーシェリアは、片方の頬を大きく膨らませている。

「ん? なに怒ってんだ?」
「……だから、ご主人サマは『間抜け』と呼ばれるのじゃ!!?」

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